JAJA939 July 2025 ESD1LIN24
ツェナー ダイオードは、多くの DC 電圧レギュレーション アプリケーションで広く使用されています。このような用途では、不十分な電力容量は過度の発熱を引き起こし、最終的にダイオードやその周辺部品を損傷するおそれがあるため、デバイスの電力性能が非常に重要になります。TI は、市場で最も広く使われている SOT-23 パッケージの大電力ツェナー ダイオードを開発することで、この課題を解決しました。SOT-23 は、リード付き 3 ピンパッケージで、約 2.9mm × 2.4mm のサイズです。デバイスの材料組成と独自のリードフレームにより、放熱性能は従来比で約 50% 向上しています。放熱性能の向上により、消費電力の全体的な許容値が高くなります。以下のセクションでは、TI が大電力 SOT-23 ツェナーダイオードを開発した手順、開発中に実施した競合分析、アプリケーション事例について詳しく説明します。
SOT-23 パッケージは、数十年にわたりツェナー ダイオード市場の主流でした。このパッケージは、さまざまな種類のダイオードとマルチチャネル対応製品を収容できる柔軟性を備えています。しかし、このパッケージには出力電力の制限という課題があり、SOT-23 ツェナーの市場では主に 300mW がその上限となっています。消費電力の主な要因は、デバイスの放熱性能、具体的には RθJA です。RθJA は、接合部-周囲間の熱抵抗を示し、特定のテストクーポン、通常は片面銅箔の FR-4 プリント基板に実装されたパッケージの放熱性能を測定する指標です。このテストクーポンにより、企業間での容易な比較が可能になります。
RθJA が低いほど、パッケージは接合部温度と周囲温度の間で熱をより容易に伝達できることを示します。これは、パッケージの放熱効率が高いことを意味します。これにより、デバイスの過熱が防がれ、デバイスの寿命を延長できる可能性も高くなります。表 1 に示すように、TI の RθJA と、現在市場に出ているいくつかの競合メーカーとの間には、顕著な違いがあります。競合 C 社は、消費電力の点で次に高い異なるパッケージを使用しています。これは、ボディ サイズが 20% 小さい TI の SOT-23 が、SOD-123 ツェナーの領域でも競合できることを示すために記載されています。
| TI | A社 | B社 | C社 | |
|---|---|---|---|---|
| RθJA | 285.5℃/W | 417℃/W | 500℃/W | 338℃/W |
| PD | 430mW | 300mW | 250mW | 370mW |
| パッケージ | SOT-23 | SOT-23 | SOT-23 | SOD123 |
| ボディ エリア | 3.8mm2 | 3.8mm2 | 3.8mm2 | 4.8mm2 |
表 1 には、消費電力 (PD) も記載されています。デバイスの全体的な消費電力を算出するには、次の式を使用します。ここで TJ は接合部温度、TA は周囲温度です。接合部温度上限が 150°C、周囲温度が 25°C の場合、上記で示した RθJA を用いて消費電力を計算できます。これは、表 1 に記載されているすべての値に対して有効です。
特に小型パッケージにおいては、消費電力の課題を克服するには、材料組成が極めて重要となります。これにはリード フレームの材質、マウント コンパウンド、モールド コンパウンドなどが含まれます。競争製品においては、鉄ニッケル合金製リードフレームが採用されていますが、この材料には熱伝導率が低いという課題があります。鉄ニッケル合金は、数十年にわたって使用されている材料ですが、材料や構造上の理由から剥離やはんだ接合部の問題が生じることが知られています。代替材料として使用される銅合金リード フレーム材料は、はるかに高い熱伝導率を備えています。この材料の違いにより、TI の SOT-23 ツェナー ダイオードは、図 1 で示すように、長期間にわたって優れた性能を発揮します。この図は、TI の SOT-23 パッケージと競合他社の SOT-23 パッケージにおける RθJA の時間変化を比較したものです。熱解析を行う際には、ダイ厚、ダイ アタッチ、リード フレーム材料、リード フレーム設計などのいくつかのパラメータは実際の構成に即して設定されています。ダイ サイズと PCB は一定の状態で、2 つのデバイスの正確な比較を行いました。
図 1 SOT-23 パッケージの熱性能比較図 1 に基づくと、競合他社のデバイスは短時間において TI デバイスよりやや優れています。これは、ダイ アタッチ材料が原因です。ダイ アタッチは、ダイをリード フレームに接続するために使われる材料です。競合他社のデバイスは、純銀のダイ アタッチと裏面メッキの採用により、短時間の放熱特性を向上させていますが、この方法はコストがかかります。下の画像は、競合デバイスのダイ アタッチの材料組成を示すものであり、その大部分は銀 (Ag) です。純銀のダイ アタッチに代わる材料として銀系エポキシを使用する方法もあります。銀系エポキシでは純銀と同じレベルの熱伝導率を実現できませんが、製造時間を短縮し、信頼性を高めることができます。デバイスの設計には常にトレードオフが伴いますが、このケースでは選択した方法が消費電力の大幅な改善という大きなメリットをもたらしました。
図 2 ダイ アタッチの組成放熱性能に寄与するもう 1 つの要素がリード フレームの設計です。SOT-23 で一般的な 2 種類のリード フレーム設計を以下に図で示します。これらの設計は通常、スタンダード リード フレームまたはスプリット リード フレームと呼ばれます。スタンダード リード フレームは、ダイが載る大きな中央パドルを持ち、このパドルが外側のパドルに接合されています。スタンダード リード フレーム設計では、サイズの制約のため、ダイを外側のパドルに載せることはできません。スプリット リード フレームは、リード フレームが連続した構造ではなく、分割された構造を指します。SOT-23 スプリット リード フレームでは、デバイスの構成に応じて、ダイを中央パドルまたは外側パドルに載せることができます。これら 2 つのリード フレーム スタイルを比較すると、スタンダード リード フレームの中央パドルは明らかに大きくなっています。この大きなパドルにより放熱性が向上し、全体的に優れた放熱性能を得ることができます。
図 3 SOT-23 スタンダード リード フレーム
図 4 SOT-23 スプリット リード フレームより大電力のツェナー ダイオードは、医療機器、電動工具、スマートメーター、先進運転支援システム (ADAS) などさまざまな用途で有効です。ADAS システムにおいては、一般的に 350mW ~ 500mW の大電力ツェナー ダイオードが逆バッテリ保護用途で使用されています。このような設計では、通常、電力性能の高い SOD123 ツェナー ダイオードが採用されていますが、TI は SOT-23 パッケージで同等の電力性能を実現しています。SOT-23 と SOD123 は PCB 上の専有面積はほぼ同じでありながら、SOT-23 は薄く、ボディ サイズが小さく、コスト効率にも優れています。
ADAS 向け TIDA-050008 リファレンスデザインの回路図(下図)に示すように、過電圧事象発生時にコンパレータの電圧をクランプするために、15V、370mW の SOD-123 ツェナー ダイオードが使用されています。コンパレータの電源電圧をクランプする主な目的は、MOSFET の最大ゲート-ソース間電圧 (VGS (MAX)) を超えないようにすることです。このアプリケーションでは、15V、430mW の SOT-23 ツェナー ダイオードである TI の BZX84C15V-Q1(商用製品も有り)を、現在のツェナーと容易に置き換えることができます。
図 5 ADAS 向け逆バッテリ保護PCB サイズのスペース制約が厳しさを増し、アプリケーションの消費電力が増加し、プロジェクトの部品表が複雑になる中、より小型で一般的に使用されているパッケージの電力性能を最適化する重要性も高まっています。TI は、大電力 SOT-23 の導入により、SOD123 など他のパッケージが担っていた電力ニーズを集約することでこの目標を達成しました。リード フレームの設計から材料選定までを最適化することで、TI の SOT-23 ツェナー ダイオードは、お客様の多くの課題解決にさらに適した製品となっています。TI のツェナー製品の詳細については、こちら の TI ページをご覧ください。