JAJT388 December   2024 AWRL6844

 

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    1.     車内レーダー設計の課題
    2.     エッジ AI の活用により車内センシングの課題を解決
    3.     まとめ
    4.     その他の資料
    5.     商標

Tim Henderson

より快適で機能豊富な運転環境を求める消費者の要求を満たすため、OEM (Original Equipment Manufacturer) は、設計の複雑さとコストの最小化の他に、変化する法規制要件を満たすための車内安全システムのセンシング機能の拡張というますます大きな課題に直面しています。Euro NCAP (European New Car Assessment Program:欧州の新車アセスメント プログラム) とその他の規格の次回の変更では、新車に対する安全ポイントの付与方法が変わり、より多くのセンシング機能を車両に搭載するように OEM に促す予定です。

従来、搭乗者監視、子供の存在検出、侵入検出などの機能をサポートするための車内センシング アプリケーションを拡充するには、ディスクリート センサを追加する必要がありました。しかし、レーダー センサ SoC の最近の技術革新により、ディープ ラーニング (エッジ AI (人工知能)) 機能を使って、1 つのデバイスで複数の機能をサポートできるようになりました。学習済みアルゴリズムによる車内データのローカル処理は、車載システム設計者が複雑性を克服し、システム コストを最小化するのに役立っています。

本稿では、OEM の設計上の課題と、車載設計者がこれらの課題を解決するのに役立つエッジ AI 対応 60GHz レーダー センサについて説明します。

車内レーダー設計の課題

最近の設計トレンドと法規制要件に対応するため、OEM は 3 つの主要な車内センシング アプリケーション (シートベルト リマインダのための搭乗者監視、存在検出 (特に子供の存在検出)、侵入検出) に注目しています。これらのセンシング アプリケーションは、自動車の搭乗者の安全確保と防犯のために不可欠です (図 1 を参照)。

 自動車の車内センシング図 1 自動車の車内センシング

このセクションでは、設計時に OEM が直面する設計課題に注目しつつ、それぞれの機能について説明します。

  • 座席の占有状況を監視してシートベルト着用を警告:現在、シートベルト リマインダ システムは、各シートに合わせて較正および調整されたシート内重量センサ網を利用しています。従来、これらのシステムは車内の前の 2 つの座席に設置されていました。しかし、OEM は現在、安全性を向上させ、法規制を遵守するため、車の後部座席にもセンサを配置しつつあります。後列にセンサを配置する場合、自動車に搭載されるセンサの数が 2 倍以上になる可能性があるため、追加のケーブル配線と、較正および調整時間が必要になることが課題です。また、重量センサ網は、生物と、バックパックのような無生物を区別できず、搭乗アラートを誤トリガする可能性があります。これは、運転体験に影響を及ぼす可能性があります。
  • 子供の存在検出:2025 年の Euro NCAP の変更によって、駐車中の自動車の中の子供の検出に対する安全ポイントは、直接センシング アプリケーションのみに付与されるようになります。これらの規格を満たすため、OEM はセンサを追加する可能性があります。超広帯域 (UWB) センサを子供の存在検出のために再使用することもできますが、必要な性能を達成するには、少なくとも 1 つの UWB センサを追加する必要があります。また、高分解能データを使わない存在検出システムは、将来のもう 1 つの NCAP 要件である子供と大人の区別に苦労する可能性があります。
  • 侵入検出:高級車では、侵入検出システムはますます一般的になりつつあります。Thatcham Research によって認証された、侵入イベントを検出する機能を備えたシステムでは、通常、侵入者が車内に到達したことを検出するために超音波センサを使っています。車の横を歩いている人、付近の活動による車の振動など、侵入以外の動きによって、これらの単純なシステムはしばしばトリガされます。

エッジ AI の活用により車内センシングの課題を解決

これらの車内センシング アプリケーションの性能要件はますます厳しくなっているため、コストを低減し、かつ設計を簡単にするための新しい技術を OEM は探しています。

AWRL6844 60GHz ミリ波レーダー センサは、システム コストを 20 ドル低減すると同時に、これらの設計課題を 1 つのデバイスで解決できるように設計されています。図 2 に、一般的な車両内センサ配置手法と、AWRL6844 を使ったシングル センサ設計手法の比較を示します。表 1 に、複数の車内センシング アプリケーションを実装した場合のモジュールあたりの平均コストを示します。

 従来の車内センシング設計手法と、1 つの AWRL6844 を使った合理的手法の比較図 2 従来の車内センシング設計手法と、1 つの AWRL6844 を使った合理的手法の比較
表 1 車内センシング用センサ モジュールの価格の内訳 (平均的な使用事例に基づく)
モジュール OEM モジュール
UWB モジュール (子供の存在検出) $5
超音波モジュール (侵入検出) $10
重量センサ モジュール (搭乗者検出) $24 (3 席、各 $8)

AWRL6844 の 16 の仮想チャネルは、走行中の自動車内の搭乗者の検出と位置の特定のために、空間分解能を向上させます。高分解能データの AI 処理は、生物と無生物をレーダーが区別するのに役立ちます。これらのアルゴリズムは短期間でデータを処理することで、搭乗者の確実な検出と位置特定をより速く行うと同時に、誤検出も低減します。内蔵デジタル信号プロセッサ上で実行されるインテリジェント クラスタリング アルゴリズムは、自動車の動きに起因するノイズをフィルタ処理することで、車内の人の存在を高い精度で判断することもできます。図 3 に、2 列目の座席の搭乗者と大量の水ボトルを AWRL6844 で区別している例を示します。

 AWRL6844 を使った、搭乗者の位置特定と無生物の識別の例図 3 AWRL6844 を使った、搭乗者の位置特定と無生物の識別の例

また、AWRL6844 は広い視野を備えることで、従来の置き去り検知システムでは通常見落とされてしまう足元や後ろ向きのチャイルド シートにいる子供を検知する能力を高めています。子供の存在検出ソフトウェアはハイブリッド処理手法を使っています。最初に従来のレーダー処理技術が重要な情報を抽出し、ローカル機械学習モデルがリアルタイム データを利用することで、大人と子供を見分ける分類システムを実現しています (例を図 4 に示します)。このハイブリッド手法より、新しいテスト ケースまたは要件を取り入れるためのモデルの迅速な調整と変更が可能になるため、OEM による展開時間が短縮されます。物理学に基づいたテキサス・インスツルメンツのニューラル ネットワークは、システムがよりインテリジェントな決定を下すのに役立ち、90% を上回る分類精度を達成します。

 AWRL6844 を使用した、後ろ向きチャイルド シートに座った乳幼児を対象とした子供の存在検出と分類の例図 4 AWRL6844 を使用した、後ろ向きチャイルド シートに座った乳幼児を対象とした子供の存在検出と分類の例

侵入検出については、AWRL6844 が内蔵する低消費電力モードと機械学習バリュー チェーンが、自動車の停車中にバッテリを消耗させることなく、センシング機能を強化するのに役立ちます。AWRL6844 は侵入者検出イベントを毎秒 10 回処理しながら、消費電力を 50mW 未満に抑えることができます。これにより、バッテリの消耗を防止できます。バッテリ駆動の電気自動車の普及を考えると、これは重要です。低消費電力であることに加えて、AWRL6844 は、オンチップ アクセラレータ上で侵入者検出処理を実行し、デバイス内のその他のコアによる割り込みを最小限に抑えることで、高い精度を維持しながら、検出時間を最小化します。図 5 に、自動車の振動または車外の動きによってトリガされる誤アラートを最小限に抑えるため、AWRL6844 が環境ノイズをフィルタ処理できることを示します。

 誤アラートを最小限に抑えるため、AWRL6844 がエッジ AI 機能を使ってノイズをフィルタ処理する方法の例図 5 誤アラートを最小限に抑えるため、AWRL6844 がエッジ AI 機能を使ってノイズをフィルタ処理する方法の例

まとめ

OEM にとって、厳格な安全および防犯要件を満たす上で、コストは常に課題となります。AWRL6844 を使うと、OEM は、1 つの使用事例に合わせてカスタマイズされた 3 つの異なる技術を統合する際の複雑さを気にせずに、低消費電力アプリケーションから高性能アプリケーションまで、設計を拡張できます。優れた検出、位置特定、分類機能と、誤検出性能の向上を組み合わせることで、最終的に消費者にとってシームレスでより利便性の高い体験を実現できます。

商標

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