オープン ソース ソフトウェアを活用して、EV 充電分野で各種規格の採用を推進する方法

オープン ソース ソフトウェアが、EV 充電、相互運用性、EV 市場に及ぼす影響

21 10 月 2024 | テクノロジーと革新

電気自動車 (EV) の台数は、2030 年までに全世界の自動車販売台数の 60% 以上に達するという予測があります。この予測を前提にすると、EV チャージャの数はそれに比例して必然的に増加することになります。信頼性の高い EV 充電インフラが必要であることは明らかです。ただし、EV チャージャ、充電プラグの種類、充電プロトコルの間に互換性が欠けている場合、航続距離への不安が高まり、購入に関するドライバーの決定に影響を及ぼす可能性もあります。ドライバーは、購入を検討している自動車と、地元または長距離旅行の出先で使用する必要のあるチャージャの間に互換性があるかどうか自信が持てなくなるからです。

EV ドライバーの懸念を解消し、充電環境をシンプルにするための答えは簡単そうに思えます。充電ステーションで複数の EV 充電規格を採用すると、ほぼすべての EV とグリッドの間で互換性を実現できます。このことを相互運用性と呼びます。

「自動車が複数の一般的なプロトコルや インターフェイスを使用して EV チャージャと通信するには、規格が重要です。その場合、EV チャージャは標準化済みの複数のインターフェイスを採用し、電力会社などの公益事業者と双方向の通信を実施することができます」と、TI のエネルギー インフラ部門責任者を務める Henrik Mannesson は語ります。

「エネルギーの移行と EV の充電を成功させるには、EV を確実に充電できる体制の確立と、適切なアダプタやコネクタを用意する手間や懸念を不要にすることが非常に重要です」と、EV 充電担当のシステム マネージャである Brandon Kanter は語ります。

EV メーカーとチャージャの種類は多数存在しているため、標準化を進める過程は複雑です。標準化を進めるには、ソフトウェアとハードウェアの両方が関与する必要があり、オープン ソース ソフトウェアは特に重要です。オープン ソース ソフトウェアは、アクセスしやすや共同作業を重視しているため、相互運用性の課題に対処する必要が生じる可能性があります。

オープン ソース ソフトウェア、標準化、市場の成長

オープン ソース ソフトウェアは、ソフトウェア スタックの集合体、つまりコードの集合体であり、EV チャージャのようなデバイスまたはシステムが、充電通信のようなアクションを実装するのに役立ちます。誰でもオープン ソース ソフトウェアのコードにアクセスして投稿することが可能です。標準化や規格の観点で考えると、この体制は利点や特長の実現に役立ちます。

プラグフェストというイベントには、多様な設計エンジニアが参加して、自らのスタックやさまざまな EV との互換性をテストし、最適なソフトウェア スタックを標準にすることができます。「スタックが標準になるのは、全員がテストを行ってフィードバックを提供し、合意に達したからです。現在、私たちは皆、このソフトウェア スタックを採用し、実用化できるようになりました」と、Arm® ベース プロセッサの部門責任者を務める Artem Aginskiy は語ります。

オープン ソース ソフトウェアのアクセスしやすさや共同作業という性質は、EV チャージャ メーカー各社にとっていくつかの点で利点になります。EV チャージャ メーカー各社は、標準化済みスタックを使用すると、相互運用性に関する課題を軽減できます。チャージャ メーカー各社はオープン ソース ソフトウェアにアクセスできます。そのため、チャージャ メーカー各社は、開発期間の短縮や開発コストの削減という利点を享受できます。メーカー各社は、EV 充電インフラの拡大という需要に対応しやすくなります。システムの信頼性も向上します。複数の担当者が同じコードを参照してバグを見つけることができ、より迅速にソフトウェア内の問題を見つけて解決できるようになります。

標準化済みソフトウェアが EV オーナーにもたらす利点は、運転と充電が簡単になるうえ、長期的なサポートにも期待できるようになることです。言い換えると、誰でもオープン ソース ソフトウェアに投稿できるため、仮にある EV チャージャ メーカーが自社の製品を生産中止にした場合でも、EV オーナーは充電環境が変化するかどうか心配する必要はありません。充電の信頼性と一様性が向上すると、ドライバーの安心感が高まり、EV 採用が進む可能性があります。

また、チャージャのソース コード (およびそのコード内のプロトコル実装) を可視化すると、EV メーカー各社は自社独自の (クローズド ソース) ソリューションが、自動車の接続先である充電インフラと互換性を維持できているかどうかを確認できます。

TI がオープン ソースを採用してきた方法

TI はこれまでに、オープン ソース ソフトウェアへの移行を推進してきました。各種規格の策定や採用を支援し、EV 充電に関連する多様なリファレンス デザインの公開という行動は、どちらもこの方針に対応します。

オープン ソース ソフトウェアを標準として使用すると、ハードウェアをさらに最適化することができます。「TI の Arm ベース プロセッサは標準的な Linux ディストリビューションを実行できます。そのため、メーカー各社は自社の充電システムに TI のハードウェアを容易に統合できます」と、Brandon は語ります。TI のプロセッサはまた、チャージャの必要に応じ、さまざまなプロトコルにまたがる有線とワイヤレスの各接続デバイスの追加もサポートしています。

TI のサポート体制は、ハードウェアに加え、ソフトウェア開発の直接サポートにも対応しています。「TI はサード パーティー各社と協力し、電気自動車サービス機器キット、つまり設計者が EV 充電機器を実装するために使用できる EV 充電のリファレンス デザインを開発してきました」と、Artem は語ります。

また、TI はオープン ソース コミュニティのイベント主催を通じて、サード パーティー各社に関与しています。TI は、アップストリーム ファーストの考え方を採用しています。言い換えると、デバイスが広い範囲で入手可能になる前に、特定の規格に対応するコードを事前に参照できるように、オープン ソースを採用するサード パーティー各社を支援します。その結果、サード パーティー各社は迅速に業務を開始し、ソフトウェア ドライバの潜在的な障害を除去することができます。

オープン ソースと未来

オープン ソース テクノロジーを採用し、それらを土台として開発を行う EV 充電企業が増加を続けている現状で、EV 充電ネットワークには、グリッドとの相互運用性の観点で新たな特長を実現できる可能性があります。

「充電ステーションには 2 つの側面があります。1 つは EV 側へ電力を供給する役割、もう 1 つは地元の電力会社から電力を引き出す消費者側の役割です」と、Henrik は語ります。「望ましいのは、充電ステーションがこれら両方の側とシームレスに接続できることです。そうすれば、充電ステーションは公益事業者との双方向通信を確立できます」。

この構想を具体化するうえで、EV の相互運用性は重要な部分を形成します。標準化された方法でデータを共有すると、グリッドはより的確に需要に適応し、実質的な需要を減らすことができます。その結果、グリッドに及ぼすストレスを軽減することや、実質的な処理能力を増やすことができます。住宅レベルでも、オープン ソースを通じて実現した各種業界規格は、双方向充電機能を使用してグリッドから引き出す負荷をインテリジェントな方法で低減し、過負荷の発生を防止するのに役立ちます。つまり、充電済み EV は電力の価格が高いときに電力をグリッドに送電し、電力の価格が安いときにグリッドから電力を引き出して充電できる可能性があります。

オープン ソースの進歩により、EV 所有の拡大を推進し、チャージャの信頼性とアクセスしやすさや充電環境に関する消費者の安心感を高め、待ち望まれている EV 充電インフラの拡充を実現することができます。

「さまざまな機器を相互接続する方法に関する合意は TI にとって有益なことです。ただし、より重要なのは、その合意が消費者にとって有益であり、しかも EV 業界の成長や持続可能性にとって不可欠である、という事実です」と、Brandon は語ります。「関係者全員が貢献できます。また、私たち TI は、重要な役割を果たせることを誇りに思っています」。

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