JAJT294 December   2018 UCC28742 , UCC28750

 

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Brian King

複数の出力電圧を必要とするシステムでは、通常フライバック コンバータが使用されます。これらの複数出力フライバック コンバータでは、すべての出力電圧に対して同時に良好なレギュレーションを維持することが大きな課題となります。

Power Tips #78 では、同期整流器を使用して複数の出力電圧間のクロス レギュレーションを改善する方法を紹介しました。同期整流器は出力電圧のバランスを維持しますが、巻線の RMS (2 乗平均平方根) 電流が大きくなることと、軽負荷時の効率が低下することがトレードオフとなります。この Power Tip では、同じ振幅の正 / 負出力を生成する特殊なケースに注目して説明を続けます。この場合、1 つのコンデンサを適切に配置することで、すべての負荷条件にわたってクロス レギュレーションを改善できます。

図 1 に、通常構成での 48V から ±12V 電源の概略回路図を示します。ここで提案する手法を実装するには、図 1 に示すように 2 次側接続を変更する必要があります。コンデンサ C3 を追加し、ダイオード D2 を 2 次側巻線のローサイドからハイサイドに移動します。2 つのトランスの 2 次側巻線が接続を共有していないことにも注目してください。コンデンサ C3 が追加されていること以外は、図 1B は図 1A と電気的に等価です。

GUID-0BA166E4-4A31-455A-8BC9-B15FCD70C84A-low.png図 1 (A) デュアル出力フライバック電源の標準的な構成、(B) クロス レギュレーションを向上するためにコンデンサを追加した構成

図 2A は、Q1 がオフで、D1 と D2 の両方が導通しているときの回路の状態を示しています。この状態では、トランスは 2 次巻線を介して両方の出力にエネルギーを供給します。C3 は +12V 出力と並列に接続されているため、同じ電圧レベルに充電されます。

図 2B は、Q1 がオンで、D1 と D2 の両方が逆バイアスでオフ状態のときの回路の状態を示しています。この状態では、1 次巻線が入力電圧から充電されるため、エネルギーはトランス内に磁気的に蓄積されます。この状態では、両方の 2 次側巻線の巻数が同じであれば、C3 の両端の電圧は -12V 出力の振幅に等しくなります。これは、図 2B に示す式で表されます。回路がこれら 2 つの状態間を交互に切り替わることによりコンデンサ C3 がチャージ ポンプとして動作するため、両方の出力電圧振幅のバランスが維持されます。このチャージ ポンプ効果により、回路内の寄生要素によって生じる電圧不均衡が補償されます。2 つの 2 次巻線の巻数が異なる場合、この手法は機能しません。

GUID-329EC7C0-6B6A-4E8E-9D09-D444C58402A1-low.png図 2 回路の 2 つの状態:(A) Q1 はオフ、D1 と D2 はオン、(B) Q1 はオン、D1 と D2 はオフ。

図 3 に、1 次巻線と 2 次巻線の漏れインダクタンスをモデル化したシミュレーション回路図を示します。 Power Tips #78 で説明したように、これらの漏れインダクタンスはレギュレーションに大きな違いを生じさせます。1 次側の漏れインダクタンスにより 1 次側に短時間のペデスタルが現れ、これが2 次側巻線に結合します。2 次巻線の漏れインダクタンスは、2 つの出力電圧間の結合を劣化させます。

GUID-5A3FEB68-301D-4415-9D5F-B089869E1732-low.png図 3 出力電圧レギュレーションに対する漏れインダクタンスの影響を調べるためのシミュレーション モデル回路図

図 4 に、+12V 出力に 1A の負荷を追加し、-12V 出力に 10 mA の負荷を追加したときの、出力ダイオードの電圧と電流の波形を示します。1µF コンデンサ C3 を追加すると、2 つの出力が適切に結合された状態に維持されるだけでなく、1 次巻線の漏れインダクタンスによるペデスタルの影響も除去されます。負荷が小さい -12V 出力のダイオード電圧に小さな発振があることに注目してください。この発振は、漏れインダクタンスがコンデンサ C3 と共振することにより発生し、その結果 -12V 出力ダイオードが導通したときに位相シフトが発生します。電流波形の形状は、-12V の電流では三角形の形状が維持され、それが +12V の 2 次巻線電流から減算されるという点で、興味深いものです。

GUID-C87892B4-B6E8-48C2-BAEE-EEE9CEF7984C-low.png図 4 出力ダイオードの電圧と電流の波形 (+12V 出力の負荷は 1A、-12V 出力の負荷は 10 mA)

図 5 のグラフに、コンデンサの追加によるレギュレーションへの影響を示します。追加コンデンサがある場合とない場合の両方で、さまざまな負荷条件における 2 つの出力のシミュレーションをプロットしています。

コンデンサを追加しない場合、-12V の負荷がゼロに向かって減少するにつれ、-12V の出力電圧は大幅に上昇します。コンデンサを追加すると、2つの出力は負荷範囲全体にわたって 3% 以内でお互いに追従します。これらの結果は、Power Tips #78 で説明した同期整流器を使用した結果と似ていますが、RMS 巻線電流が増加するという欠点はなく、コストや複雑さもほとんど増加しません。

GUID-44BA6F10-D39B-4BA6-99C4-7CF324936EA5-low.png図 5 単一コンデンサを追加することでクロス レギュレーションが大幅に改善されることを示すシミュレーション結果

結論として、寄生漏れインダクタンスは、複数出力の電源においてレギュレーションの劣化を招きます。同じ振幅の正と負の出力を持つデュアル出力電源では、コンデンサを 1 つ追加することでレギュレーションが大幅に改善されます。

出力電圧の振幅が異なる複数出力の電源でクロス レギュレーションを改善するには、同期整流器を使用するのが最善の方法と考えられます。

次回デュアル出力電源を設計するときには、設計の性能を向上させるため、このシンプルな手法を実装することを検討してみてください。

その他の Power Tips については、Power House でテキサス・インスツルメンツの Power Tips ブログ シリーズをご覧ください。

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