JAJA660A april   2019  – july 2023 TMCS1100 , TMCS1100-Q1 , TMCS1101 , TMCS1101-Q1 , TMCS1107 , TMCS1107-Q1 , TMCS1108 , TMCS1108-Q1 , TMCS1123 , TMCS1126 , TMCS1133

 

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より高い効率を持つシステムの需要が増加し続けているという事実が、モータの動作効率と制御性の向上の要求に直接つながっています。このような見方は、以下の用途に使用されているものを含むほぼすべての種類の電気モータに当てはまります。

  • 白物家電
  • 産業用動力駆動
  • オートメーション
  • 車載用アプリケーション

動作電圧が高い高電力システムでは特にその傾向が強まっています。制御アルゴリズムにフィードバックするモータの動作特性は、モータが確実に最大の効率と性能で動作する上で重要です。位相電流は、最適なモータ性能を引き出すためにシステム・コントローラが使用するこれらの重要な診断フィードバック要素の 1 つです。

計測信号と位相電流を直接的に相関させるための、モータの各巻線に流れる電流の計測位置は、図 1 に示すように、各相に直列の位置です。その他の位置 (例:各相のローサイド) で電流を計測する場合、これらのデータの組み換えと演算処理により初めて、意味のあるデータとして制御アルゴリズムで使用できます。

GUID-71D9B491-ECA0-4B86-9990-DA0555E19E09-low.gif図 1 インライン電流センシング

モータ駆動回路は、モータの動作を制御するために PWM (パルス幅変調) 信号を生成します。これらの変調信号によって、モータの各相にインライン (直列) に配置された計測回路には、サイクルごとに正負の電源レールに切り替わる大きな過渡電圧が印加されます。電流センサは、計測の同相電圧成分を完全に除去し、目的の電流のみを計測できます。TMCS1123TMCS1100 などのインパッケージ磁気電流センサは、パッケージのリードフレームに位相電流を流し、内部磁場を発生させます。次にガルバニック絶縁型センサがその磁場を計測することで、センサ IC と絶縁された位相電流との間を電気的に直接接続しなくても電流を計測できます。磁場のみを計測することで、PWM スイッチング過渡に対する優れた耐性だけでなく、高い同相電圧に対する絶縁も実現できます。このため、PWM 駆動の大きな入力電圧ステップが原因でセンサ出力に不要な乱れを生じさせることなく、モータの位相電流を高精度で計測できます。図 2 に、TMCS1100 の RC フィルタ処理後の出力波形とモータの位相電圧 / 電流波形を示します。計測上の寄生効果による PWM との結合がわずかに確認されるだけで、TMCS1100 の出力はモータ位相電流に追従しており、300V のスイッチング・イベントに起因する大きな出力過渡は見られません。

GUID-6C587118-DBBA-4EF6-AE0B-EC8041569267-low.gif図 2 過渡耐性の高いモータ位相電流計測

インパッケージ磁気電流センサの優れた特性は、その他のモータ位相電流計測設計が直面している課題の多くを解消します。本デバイスは、本質的に備えているガルバニック絶縁により、高電圧に耐えることができます。また、出力の過渡耐性が優れているため、スイッチング・イベントに起因する出力ノイズを低減できます。このような耐性を備えていない電流センシング回路は、出力グリッチのセトリング・タイムを短縮するために広い帯域幅を必要としますが、磁気センサは過渡耐性を犠牲にすることなく、低帯域幅の信号チェーンを使用することができます。また、インパッケージ磁気電流センサの場合、外付けの抵抗シャント、パッシブ・フィルタ、高電圧入力用の絶縁電源がいずれも不要なため、総コストと設計の複雑さを低減できます。

位相電流を計測することで過電流保護または診断を行うアプリケーションでは、 などの過渡除去性能の高い磁気電流センサを使用することで、出力グリッチによる過電流の誤検出を防止できます。閉ループ・モータ制御アルゴリズムを使用するモータ・システムでは、モータ性能を最適化するために高精度の位相電流計測が必要です。従来、ホール素子を使用した電流センサは温度、耐用期間、ヒステリシスによる大きな誤差に悩まされてきました。これらの誤差はモータの効率とダイナミック応答を低下させ、トルク・リップルなどの誤差の原因となります。一般的なシステムレベルの較正手法によって室温での精度は改善できますが、感度、オフセットなどのパラメータの温度ドリフトを改善するのは困難です。

テキサス・インスツルメンツの磁気電流センシング製品は、特許取得済みの線形化手法と全温度範囲にわたって安定に高精度で電流を計測できるゼロドリフト・アーキテクチャとを採用することでシステムレベルの性能を向上させます。高精度センサは、位相間の電流計測誤差を厳密に制御することで、正確なフィードバック制御を維持するとともに、シームレスなユーザー体験を実現します。

GUID-E429F013-CA81-49A3-8241-F447A3572B33-low.gif図 3 TMCS1100 の全温度範囲での感度誤差 (代表値)

TMCS1100 は、室温で感度誤差 0.3% (代表値) 未満、最大感度誤差は -40℃~125℃の温度範囲全体にわたって 0.85% 未満です。温度範囲全体にわたって安定しているため、図 3 に示すように、センサの温度ドリフトが最小化され、位相間のマッチングに優れています。高い感度精度に加えて、2mV を下回る出力オフセット・ドリフト (図 4 参照) により、計測のダイナミック・レンジが大幅に拡大し、軽負荷時でもフィードバックを精密に制御できます。

GUID-3FD0D987-F658-460E-BA97-77321435F7C4-low.gif図 4 TMCS1100 の全温度範囲での出力オフセット (代表値)

優れた感度安定性と小さなオフセットにより、全動作温度範囲にわたって総合誤差 1% 未満という業界最高レベルの絶縁型電流センシングを実現しています。600V の使用電圧と 3kV の絶縁バリアにより、本デバイスは多様な高電圧システムに適合できます。計測の温度安定性、ガルバニック絶縁、過渡 PWM 入力除去という特長を併せ持つ TMCS1100 は、モータ位相電流計測などの PWM 駆動アプリケーション向けに設計されています。これらのアプリケーションでは、性能を精密に制御するため正確で信頼性の高い計測が必要です。

表 1 その他の推奨デバイス
デバイス最適化されたパラメータ性能のトレードオフ
TMCS1123周囲磁界除去、25℃で 75ARMS、1.1kV の強化絶縁低精度、PSRR
TMCS1101基準電圧内蔵磁気電流センサ低精度、PSRR
AMC1300強化絶縁型シャント・アンプ設計サイズ、複雑さ
INA241PWM 除去機能を備えた高精度シャント・アンプ110V 動作