JAJA930 July   2025 BZX84C8V2

 

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はじめに

ツェナーはダイオードファミリの中でも、最も汎用性の高い製品のひとつであり、低コストの電圧レギュレータとして使用でき、さらに、過電圧イベントからのクランプ保護機能も備えています。電圧レギュレータや過電圧クランプとして使用されるツェナーの具体的な用途は、電動工具や車両のバッテリ管理回路など、さまざまなアプリケーションにおよんでいます。また、ツェナーは、ウェアラブルや充電器などのアプリケーション用途向けの電源設計にも広く使用されています。バッテリ駆動アプリケーションには、uA範囲の非常に小さい電流動作を必要な場合がありますが、ほとんどのツェナーダイオードはmA範囲のテスト電流でその特性が定められています。50 ~ 500uAの範囲のテスト電流ではVzが大きくドリフトする可能性があり、厳しい電圧レギュレーションが必要とされるアプリケーションでは受け入れられないおそれがあります。低いテスト電流でのこのVzの動作を、ツェナーノイズ現象と呼びます。Vzが8.2V以下のTIのツェナーダイオードは、このような低いテスト電流時にはVzドリフトが小さいため、低電流で動作するアプリケーションには最適な設計になります。これらのダイオードは超小型マルチソースパッケージで供給されているため、レギュレータのICに比べて基板面積だけでなく、BOM(部品表)コストを節減できます。

ツェナーノイズ現象

 アバランシェブレークダウン時の逆バイアスPN接合図 1 アバランシェブレークダウン時の逆バイアスPN接合

ツェナーダイオードが安定したVzを供給するには、アバランシェモードに移行する必要があります。そのためには、次の2つの条件を満たす必要があります。

  • 印加された電界強度(または逆電圧)が、ダイオードがブレークダウン(絶縁破壊)に入るのに十分な大きさであること。
  • ある程度の最小リーク電流が流れる必要があります。

1mAを下回る電流では、ダイオードのアバランシェブレークダウンは瞬時に終了します。この条件では、ダイオードはがコンデンサのように動作する場合があります。立ち上がり電圧信号の時定数は、電流駆動の抵抗とダイオード容量(CD)によって決まります。

ダイオードを高電圧まで充電すると、別のアバランシェブレークダウンが発生するおそれがあります。これらの条件下では、アバランシェブレークダウンの開始または終了により、ツェナー全体の電圧が上昇する可能性があります。この現象をツェナーノイズと呼びます。

図 2に、逆電流50uA時ので39Vツェナーダイオードのノイズ現象を示します。各立ち上がり勾配の間にで、ダイオードは短時間アバランシェモードを終了し、p-n接合を通る電子の流れを阻止します。束縛電子を押しのけるの十分な電荷が蓄積されると、他の電子との衝突が発生し、別のアバランシェ破壊のトリガーがかかるまでより多くの電子がイオン化される場合があります。50uAの範囲の小さい逆電流では、ブレークダウン電圧を下回るまで電圧が低下し、ダイオードはアバランシェモードが再び終了します。アバランシェブレークダウンによるスイッチングは、ツェナーノイズが発生します。約1mAまたはそれ以上の大きな逆電の場合、十分な逆電圧が印加されていれば、ダイオードはアバランシェブレークダウンを維持できます。このため、ほとんどのツェナーダイオードは安定したVzが観測されるmA範囲の逆電流で特性付けされています。

 50uAで39V Vz図 2 50uAで39V Vz

図 3は、50uAのテスト電におけるテキサス インスツルメンツのBZX84C8V2と、競合製品の8.2VツェナーダイオードのVzドリフトを示しています。TIのダイオードのピークツーピーク電圧ははるかに低く、最小限のリンギングでVzに向けて迅速に安定します。ダイオードグループの低ピークツーピークノイズをテストしたTIの設計では、この低テスト電流ではノイズ現象がより優勢になります。

 50uAで8.2V Vz図 3 50uAで8.2V Vz

理論的には、テスト電流が増加するにつれて、ピークツーピークノイズがより低くなります。これは、Vz以上の電圧が供給されるとアバランシェブレークダウンを維持できるためです。アバランシェブレークダウンを維持するために必要な電流は、プロセステクノロジの違いにより、サプライヤごとに異なる場合があります。テキサス インスツルメンツのツェナーダイオードは、テスト電流が増加するにつれてノイズが着実に低減しますが、競合他社のツェナーダイオードは、500μAにおいてより高いノイズを示しました。

 500uAで8.2V Vz図 4 500uAで8.2V Vz

サンプル アプリケーション

ツェナーは多くの場合、バッテリパックの設計に実装され、セルの過電圧と低電圧、過熱、充電と放電の過電流モードなど、状況を監視する機能を搭載しています。ツェナーの低電流特性は、バッテリ管理ユニットがわずか数uAの低消費電力モードで動作するアプリケーションに適しています。バッテリパックの設計でツェナーを幅広く使用するのは、電圧レギュレーションだけが目的ではなく、多くの場合数ボルトしか耐えることができないMCUのGPIOやバッテリモニタIC温度センサピンなどの高感度回路のクランプ保護も目的としています。ツェナーに過渡パルスが検出され、流すことのできるバイアス電流がわずか、または皆無の場合、オーバーシュートが悪化する可能性があります。低電流時により安定したVzを示すことができるツェナーは、このようなシナリオではより安定したクランプ電圧になる可能性があります。

バッテリパックリファレンスデザインの下に示す簡略回路では、スイッチ(SW)のトリガがかかった瞬間にセル1の電圧が変動する可能性があります。この電圧が絶対最大電圧定格を下回るレベルにクランプされない場合、バッテリモニタICの温度センシングピンが損傷するおそれがあります。ウェークアップ後、電圧監視は通常に戻りますが、DC電圧やクランプ過渡をレギュレートするためにはD1ツェナーが必要です。

 バッテリ監視保護回路の概略図図 5 バッテリ監視保護回路の概略図

D2ツェナーダイオードは、パックの+/-接続に配線されている外部の充電/放電制御FETのVGSに損傷を与えるおそれのある過渡電圧をクランプするためにも必要です。バッテリ側では、セルバランシングFETの場合も過渡クランプ保護が必要になります。

 バッテリセル保護回路の概略図図 6 バッテリセル保護回路の概略図

このバッテリパックのリファレンスデザインにはCANトランシーバもあり、5V電源の電圧スパイクを5.6Vツェナーでクランプします。

 電源ピンの保護またはレギュレーション回路図 7 電源ピンの保護またはレギュレーション回路

バックアップバッテリユニットなどのバッテリ駆動アプリケーションの電源は、多くの場合、バッテリ寿命を最大化するために、小電流動作が必要です。以下の図にあるように、D1とD2のツェナーダイオードを使用して、昇降圧コントローラのBOOT - SWノード電圧を絶対最大定格未満に維持しています。これらのスイッチノードではリングにより、BOOTからSWへの電圧にスパイクが発生するおそれがあります。また、テキサス・インスツルメンツのツェナーダイオードは、業界標準のツェナーダイオードと比較して静電容量が小さいという特長があります。これは、追加の寄生容量によって引き起こされる過剰なスイッチング損失を回避するうえで、スイッチノード電源において重要です。

 昇降圧コントローラのSWノード保護図 8 昇降圧コントローラのSWノード保護

まとめ

ツェナーダイオードはパワーエレクトロニクスでは重要な部品であり、さまざまな市場で安価で信頼性の高い電圧安定化とクランプ保護機能を提供しいてます。ただし、低電流時のツェナー性能は、ツェナーノイズ現象によって安定した電圧レギュレーションを行うために特性評価する必要があります。TIの低ノイズツェナーダイオードは、わずか数 μAの電流で安定したブレークダウン電圧を実現して、この制限に対処します。TIのツェナーダイオードの詳細と選択肢についてはこちらを参照してください。ツェナーダイオード