JAJT491 August 2025 LMR33630 , TPS5430
先進的な運転支援システムのセンサ、ソナー アプリケーション用の超音波トランスデューサ、通信機器にバイアスをかけるには、低電流と負の高電圧が必要です。ソリューションとしてはフライバック、Cuk、反転昇降圧コンバータのいずれも考えられますが、大型トランス (フライバックと Cuk) が必要となること、コントローラの入力電圧定格 (反転昇降圧) が原因で、負電圧の最大値が制限されることが不利な点です。この Power Tip では、単一のインダクタと、不連続導通モード (DCM) で動作する反転チャージ ポンプを組み合わせるコンバータの動作について詳しく説明します。グランド リファレンスの昇圧コントローラと組み合わせると、システムのコストを抑えながら大きな負の出力電圧を生成できます。
図 1は、電力段の回路図を簡略化したものです。この回路図は従来の反転昇降圧コンバータとは異なっています。従来のコンバータでは VINと VOUT の間でコントローラが「浮いた」状態になります。そのようなコンバータでは、到達可能な -VOUT の最大値は、コントローラの最大 VCC から 最大入力電圧をマイナスした値です。そのため、-100V 以上の出力電圧に対応できる N チャネル電界効果トランジスタ (FET) を駆動できるコントローラを見つけるのはほぼ不可能となります。
図 1 インダクタ駆動の反転チャージ ポンプの電力段 (簡略図)この回路の動作は 3 つの区間に分けることができます(図 2)。最初の区間では、デューティ サイクル (d) 中に FET がオンになります。これにより、インダクタの両端に VIN がかかり、電流がゼロから上昇し、エネルギーが蓄積されます。ただし、前のサイクルでは C1 (VOUT にほぼ等しい電圧を維持) で蓄積された余分なエネルギーが枯渇し、D1 と D2 が逆バイアス状態となっています。このため、この区間に D1、D2、C1 は表示されません。C2 がすべての負荷電流を供給します。
次の区間 d’ では、FET がオフになり、インダクタ電流が放電を開始して、その電圧の極性が反転します。これにより、ノード VFET にかかる電圧が大幅に上昇し、C1 は D1 経由で再充電されます。この区間では、電流は D1 がオフになるまで減少します。しかし、D1 の逆回復特性により、最終的にオフになる前に電流は負の方向に流れます。その時点でインダクタの電流の勾配が変化し、その電圧の極性が再度反転します。
3 番目の区間 d'' では、いよいよ C1 から C2 にエネルギー転送が行われます。D1 が導通を停止すると、VFET ノードの電圧が FET のボディ ダイオードを流れる電流経路によって強制的に接地電位に落とされるため、インダクタの電圧が VINにクランプされます。電流は C1 と C2 の両端の電圧が等しくなるまで D2 を流れますが、FET のボディダイオードを流れる電流はインダクタの電流がゼロになるまで続きます。この時点でインダクタの両端間の電圧が低下し、FET が再度オンになるまで回路の寄生容量と共振します。
図 2 DCM 動作の 3 つのフェーズ図 3 は主な電圧と電流の波形を示したものです。DCM の動作ではインダクタンスを可能な限り最小化できますが、ピーク電流は大きくなります。DCM の動作におけるインダクタンスは、最大デューティ サイクル、最小 VIN、全負荷によって決まります。最大デューティ サイクルは、コントローラのデータシートでよく確認してください。通常は 60% ~ 90% で選択できますが、それ以外の場合はパルス スキッピングが発生する可能性があります。インダクタンスが大きすぎると、次のスイッチング サイクルの前に電流がゼロに戻らないため、動作は連続導通モード (CCM) に移行します。その結果、必要以上に大きなインダクタを使用することになり、分数調波振動を防止するために特別な注意が必要となります。
図 3 DCM の主な回路波形DCM 動作の場合、式 1 はインダクタの蓄積エネルギーの関係を満たしています。
ここで、Ipk はピーク インダクタ電流、ηはコンバータの効率です。ピーク インダクタ電流は次に、式 2 に等しくなります。
以下の 2 つの式から、式 3 はデューティ サイクル (d) を次のように表します。
VIN は FET がオンのときのインダクタの両端の電圧で、Ipk はデューティ サイクル d の終了時のインダクタ電流であるため、式 2 を式 3 に代入すると、式 4 と式 5 が得られます。
平均負荷電流は区間 d’ の間の式 6 と式 7 の幾何学的関係によって決定されます。
式 2 を式 7 に代入すると、式 8 が得られます。
残りの区間は d'' として定義されます。このとき、エネルギーが C2 に転送され、残りのインダクタ電流がゼロに放電されます (式 9)。
図 4は、電圧ダブラを使用したコンバータの回路の例です。この構成では、各電力段部品の電圧ストレスはフル出力電圧の半分に等しくなります。そのため、使用可能な部品の選択肢が広がります。この事例のインダクタンスの計算では、出力電圧が半分と仮定し、負荷電流は 2 倍として扱いました。
図 4 電圧ダブラとレベル シフト電流ミラーを搭載した、インダクタ駆動の反転チャージ ポンプ回路図このコンバータは、小型の単一インダクタ ソリューションで大きな負電圧の生成を実現します。また、低コストのグランド リファレンス昇圧コントローラを使用して、N チャネル FET を駆動できます。
その他の Power Tips については、Power House で TI の Power Tips ブログ シリーズをご覧ください。
この記事は、以前 EDN.com で公開された記事です。