JAJA498B December   2016  – September 2021 INA199 , INA199-Q1 , INA210 , INA210-Q1 , INA211 , INA211-Q1 , INA212 , INA212-Q1 , INA213 , INA213-Q1 , INA214 , INA214-Q1 , INA215 , INA215-Q1 , INA219 , INA220 , INA220-Q1 , INA226 , INA226-Q1 , INA228 , INA228-Q1 , INA229 , INA229-Q1 , INA230 , INA231 , INA233 , INA234 , INA237 , INA237-Q1 , INA238 , INA238-Q1 , INA239 , INA239-Q1 , INA260 , INA301 , INA301-Q1 , INA302 , INA302-Q1 , INA303 , INA303-Q1

 

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電子システムでは、動作が許容範囲内にあることを検証するフィードバックとして、また潜在的な故障状態を検出するために、電流測定が利用されます。システムの電流レベルを解析することで、意図しない、または予期しない動作モードを診断でき、信頼性の向上やシステム部品の損傷防止のために調整を行うことが可能となります。

電流は直接測定が困難な信号です。しかし、流れる電流の影響を測定できるいくつかの測定方法が存在します。導線を流れる電流は磁界を発生させ、この磁界は磁気センサー (例えばホール効果センサーやフラックスゲート) によって検出可能です。電流測定は、電流が抵抗器を通過する際に発生する抵抗両端の電圧を測定することで行うことも可能です。この種の抵抗器は、電流検出用抵抗器またはシャント抵抗器と呼ばれます。

100 ボルト以下の電圧レールで最大 100 アンペアまでの電流範囲においては、シャント抵抗器を用いた電流測定が一般的に好まれます。シャント抵抗器方式は、磁気式ソリューションと比較して、物理的に小型で、より高精度かつ温度安定性に優れた測定を一般的に実現します。

システムの電流の情報を評価し分析するには、デジタル化してシステム コントローラへ送信する必要があります。シャント抵抗両端に発生する信号を測定・変換する方法は多数存在します。最も一般的な方法は、アナログ フロントエンドを使用して、電流センシング抵抗の差分信号をシングルエンドの信号へ変化するものです。このシングルエンド信号は、マイクロコントローラに接続されたアナログ・ツー・デジタル コンバータ (ADC) に入力されます。図 1 は電流検出信号チェーンを示しています。

INA210 INA226 電流センシング シグナル パス 図 1 電流センシング シグナル パス

電流検出信号チェーンを最適化するためには、シャント抵抗値とアンプのゲインを、電流範囲および ADC のフルスケール入力範囲に応じて適切に選定する必要があります。シャント抵抗器の選定は、測定精度とシャント抵抗器での消費電力とのトレードオフに基づいて行われます。抵抗値が大きいほど、電流が流れる際により大きな差動電圧が発生します。これにより、固定されたアンプのオフセット電圧による測定誤差が小さくなります。しかし、信号が大きくなるとシャント抵抗器での消費電力 (P=I2R) も増加します。抵抗値の小さいシャント抵抗器は、抵抗両端の電圧降下を小さくし消費電力を抑制しますが、一方でアンプの固定オフセット誤差が信号に占める割合が大きくなるため、測定誤差が増加します。

アンプのゲインは、フルスケール入力電流レベルにおいて、アンプの出力信号が ADC のフルスケール入力範囲を超えないように選定されます。

INA210は専用の電流センシング アンプで、図 2に示すようにゲイン設定抵抗が内蔵されています。ゲイン設定用抵抗をデバイス内部に組み込むことで、一般的な外付けゲイン抵抗と比べてマッチング精度および温度ドリフトの安定性が向上します。省スペース化された QFN パッケージは、オペアンプおよび外付けゲイン抵抗器の基板占有面積を大幅に削減します。電流センシング アンプは一般に、入力電流とADCのフルスケール入力範囲に基づいて、シャント抵抗の値とのマッチングを最適化できるよう、複数の固定ゲイン レベルを持ってます。

INA210 INA226 INA210:電流センス アンプ 図 2 INA210:電流センス アンプ

図 1 は、シャント抵抗器両端に発生する差動電圧を測定するオペアンプと、増幅した信号をシングルエンド ADC に送る様子を示しています。フル差動入力 ADC は、シャント抵抗器両端の差動電圧を直接監視できます。一般的な ADC を使用する場合の欠点の一つは、使用可能な入力範囲が狭くなることです。シャント抵抗器で発生する信号は、この部品の消費電力を抑えるために小さく設定されています。低分解能の ADC は、小信号測定の精度にも影響を及ぼします。

また、ADC のリファレンスも信号経路における追加の誤差要因となるため、評価が必要です。一般的な ADC は、コンバータのリファレンス電圧に基づいた入力範囲を備えています。実際のリファレンス電圧範囲はデバイスごとに異なりますが、一般的には 2V から 5V の範囲です。LSB (最下位ビット) は、コンバータのフルスケール範囲と分解能に基づいて決まります。例えば、フルスケール入力範囲が 2.5V の 16 ビットコンバータの場合、LSB 値はおよそ 38µV となります。

INA226は、双方向の電流センシング アプリケーション専用に特化したADCです。一般的な ADC と異なり、この 16 ビットコンバータは±80mV のフルスケール入力範囲を備えており、入力信号を増幅して ADC のフルスケール入力範囲を最大化する必要がありません。INA226 は、最大入力オフセット電圧 10µV と LSB サイズ 2.5µV に基づき、小さなシャント電圧を高精度に測定できます。INA226 は、フルスケール入力範囲 2.5V の標準的な 16 ビット ADC と比較して 15 倍の高解像度を提供します。INA226 の特化設計により、図 3 に示すように、電流検出抵抗器両端の電圧降下を直接監視するのに最適なデバイスとなっています。

INA210 INA226 デジタル電流/電力モニタ 図 3 デジタル電流/電力モニタ

電流が流れる際にシャント抵抗器両端に発生する電圧を直接測定できる機能に加え、INA226 はコモンモード電圧も測定可能です。INA226 には入力マルチプレクサが搭載されており、ADC の入力回路は差動シャント電圧測定とシングルエンドのバス電圧測定の間で切り替えることができます。

システム内の電流検出抵抗値は、INA226 の構成レジスタにプログラム可能です。この電流検出抵抗値と測定されたシャント電圧に基づき、チップ内で計算を行い、シャント電圧を電流に変換するとともに、対応するシステムの消費電力レベルを直接読み出すことができます。これらの計算をチップ内で実行することで、本来この情報を変換するために必要となるプロセッサ資源を削減できます。

その他の推奨デバイス

性能が低くてもいいアプリケーションでも、INA199を使用して専用の電流センシング アンプの利点を得られます。過電流検出を実装するアプリケーション向けに、INA301 は集積コンパレータを搭載しており、最短で 1µs のオンチップ過電流検出を可能にします。性能要件が低いアプリケーションでは、INA219 を使用することで、特化した電流検出用 ADC の利点を活用できます。

表 1 その他の推奨デバイス
デバイス 最適化されたパラメータ 性能のトレードオフ
INA199 大幅に低減 より高い VOS およびゲイン誤差
INA301 信号帯域幅、オンボード コンパレータ より大きいパッケージ:MSOP-8
INA219 小パッケージのデジタル モニタ、低コスト より高い VOS およびゲイン誤差
INA190 より高精度 該当なし
表 2 関連する テキサス・インスツルメンツのアプリケーション ブリーフ
SBOA162 電流の測定による異常の検出
SBOA165 高電圧のレールにおける高精度の電流測定
SBOA160 高精度、低ドリフトのインライン モータ電流測定
SBOA161 三相システムでの低ドリフト ローサイド電流測定