JAJT300 February   2024 UCC25800-Q1

 

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    2.     複数の出力と最大 8W の電力に ‌1 つの IC で対応:UCC25800-Q1
    3.     2W 未満の絶縁型電源が必要な場合のより簡単な方法:UCC14240-Q1
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Josh Mandelcorn

絶縁型バイアス電源は各種の産業および車載用システムで使われています。絶縁型バイアス電源としてフライバックまたはプッシュプル コンバータを使用する既存のほとんどの方法 (テキサス・インスツルメンツ、『HEV/EV 向け絶縁型バイアス電源のアーキテクチャとトポロジのトレードオフ』プレゼンテーションと『3 種類の IGBT/SiC バイアス電源ソリューションによる HEV/EVトラクション インバータ電力段のリファレンス デザイン』を参照) は設計に多大な労力を必要とし、漏れインダクタンスが小さい絶縁トランスを使う必要があります。

この Power Tip では、絶縁型バイアス電源の設計の複雑さとノイズの結合の両方を低減する 2 つの方法について説明します。複数の絶縁された出力と最大 8W の総出力電力を実現する場合に便利な‌第 1 の方法では、インダクタ - インダクタ - コンデンサ (LLC) トポロジと、テキサス・インスツルメンツの UCC25800-Q1 などのハーフ ブリッジ ドライバを使います。絶縁トランスを内蔵し、最大 1.5W の電力と 1 つの絶縁された出力を実現する場合に便利な‌第 2 の方法では、テキサス・インスツルメンツの UCC14240-Q1 などの 1 つの集積回路 (IC) を使います。このデバイスには電源と帰還の絶縁がどちらも内蔵されているため、設計を完了させるのに必要なものはフィルタ コンデンサと抵抗分圧器のみです。

絶縁型電源の、特に低電力レベルでの複雑さは、コスト、サイズ、設計リソースの面で大きな負担です。低電力向けの最も一般的なトポロジは、フライバック コンバータです。従来型フライバック コンバータでは、1 次側のコントローラ IC に 2 次側から出力電圧を返すのにフォトカプラを使用します。低コストのフォトカプラは、長期信頼性に関する懸念があるため、要求の厳しい車載および産業用の環境では選択できません。閉ループ レギュレーションを使用しても、実際に完全にレギュレートされるのはフライバック出力のうち 1 つのみです。フォトカプラを必要としない 1 次側レギュレーションを採用したフライバック コンバータ (テキサス・インスツルメンツの LM5180-Q1 など) が利用できます。ただし、漏れインダクタンスが小さいトランスの必要性と、そのノイズと絶縁に関する課題は依然として残っています。

ほとんどのコンバータ トポロジにおいて、絶縁バリア越しに電力を効率的に供給するには、漏れインダクタンスが小さいトランスが重要です。密結合巻線、インターリーブなど、トランスの漏れインダクタンスを低減する方法を使うと、一般に 1 次側と 2 次側との間の静電容量が大きくなります。この静電容量は、絶縁型コンバータのスイッチング自体と、絶縁された出力が接続されている回路 (トラクション インバータ内のハイサイド スイッチ、オンボード チャージャなど) の両方からのノイズを拡散させます。これらのスイッチは、1 ナノ秒あたり 100V を上回るレートで電圧を上下に変動させる可能性があります。また、優れた強化絶縁 (数 kV) と小さい漏れインダクタンスの両方を必要とするトランスは、コストとサイズの点で大きな負担です。

ここで、約 8W 以下、利用可能な 1 次側電源範囲 12VDC~24VDC の高絶縁型電源のニーズに注目します。AC 商用電源または 400V および 800V バッテリに接続された回路で電力が必要とされる場合、安全な絶縁を実現するには、高い絶縁定格 (3kV RMS (2乗平均平方根) 以上)が必要です。応用例として、電気自動車向けオンボード チャージャとトラクション インバータの絶縁型バイアス電源を挙げることができます。これらの電源は通常、スイッチを高速でターンオンさせるために約 +15V、ターンオフさせるために約 -5V を必要とし、リターン経路を大電力スイッチのエミッタまたはソースに接続しています。

複数の出力と最大 8W の電力に ‌1 つの IC で対応:UCC25800-Q1

LLC トポロジ (アプリケーション ノート『UCC25800-Q1 開ループ LLC トランス ドライバを使用した絶縁型ゲート ドライバのバイアス電源設計』を参照) を使用すると、無帰還で絶縁出力電圧の良好な負荷レギュレーションが可能です。実際、このトポロジは、トランスの漏れインダクタンスを利用して、ソフト スイッチングを実現し、メイン スイッチでのスイッチング損失を大幅に低減しています。出力レギュレーションに対する漏れインダクタンスの影響は、カップリング容量を調整することで効果的に排除できることから、1 次側と 2 次側を別々のボビンに配置した高絶縁トランスを使うことができます。その結果、カップリング容量の最小化によるシステム ノイズの低減と、強化絶縁耐圧の向上 (数 kV) による安全性の向上が実現できます。ソフト スイッチングと、カップリング コンデンサの調整を組み合わせることで、漏れインダクタンスを味方に変えることができます。

この方法では、2 次側レギュレーションの必要性をなくすため、電源の入力 DC 電圧が安定化されている必要があります。(ここで必要とされる低電力レベルに対応するため) 2 スイッチ ハーフ ブリッジを使用して、入力の半分の電圧の方形波をトランスの 1 次側に印加します。車載アプリケーションでは、他の目的で 12V または 24V の安定化 DC 電圧がよく使われます。プリレギュレータが必要な場合、単純なシングルエンドの 1 次側インダクタ コンバータで、安定化された 15V または 24V 入力電力を供給します。このプリレギュレータを設計することの負担は、‌多くの場合、漏れインダクタンスが小さいフライバック トランスに起因するシステム ノイズを制御するという問題の負担よりもはるかに小さいでしょう。

UCC25800-Q1 を使用した公開済みの設計例には、トラクション インバータ アプリケーション向けの事前に安定化された絶縁型ドライバ バイアス電源のリファレンス デザイン (入力 30V、4 出力、合計 6W。図 1図 2 を参照)、トラクション インバータ アプリケーション向けの絶縁型 IGBT および SiC ドライバ バイアス電源のリファレンス デザイン (入力 24V、出力 +16V/-5V、最大 6.6W) が含まれます。絶縁ゲート型バイポーラ トランジスタ (IGBT) およびシリコン カーバイド (SiC) ドライバのリファレンス デザインで使用されているトランスの 1 次側と2 次側の間の静電容量はわずか 1.3pF (標準値) です。それに対して、同程度の電力のフライバック トランスの対応する静電容量は 20pF (標準値) です。この静電容量の低減 (1/10 未満) は、システムのノイズの拡散が 20dB 以上低減することを意味します。1 次側と 2 次側の唯一のインターフェイスはトランスです。

GUID-0D4E0972-BF0F-4063-978F-C3B2E8E4F3AF-low.png図 1 事前に安定化された絶縁型ドライバ バイアス電源のリファレンス デザイン (絶縁型 4 出力コンバータ) の回路図の抜粋。出典:テキサス・インスツルメンツ
GUID-9D3B5592-465C-413B-96D8-D5A87610C0D3-low.png図 2 事前に安定化された絶縁型ドライバ バイアス電源のリファレンス デザインの組み立て済みボード (6VIN からの昇圧回路を含む)出典:テキサス・インスツルメンツ

4 つの出力の出力レギュレーションは、10% から 100% (最大負荷) の負荷に対して 16.25V~17.27V の範囲で変動します。

2W 未満の絶縁型電源が必要な場合のより簡単な方法:UCC14240-Q1

より簡単な方法は、トランスと 1 次側フィードバックを内蔵した自己完結型の絶縁型コンバータ IC です。正と負の両方の出力を設定するのに必要な部品は、入力 / 出力コンデンサと分圧器のみです。電力段には、1 次側フル ブリッジ、システムのノイズ結合を最小化するため 1 次側と 2 次側との間の容量が約 3.5pF と非常に小さい絶縁トランス、フル ブリッジ出力整流器が含まれます。スイッチング周波数を ‌13MHz に選択しているため、1 次側 - 2 次側間の静電容量をこのように小さくできるとともに、車載アプリケーションで懸念されるすべての帯域から自身のスイッチング ノイズを良好に除去できます。IC の内部フィードバックにより、入力電圧が公称値から ±10% 以上変化しても、公称値の 1.3% 以内に良好にレギュレートされた正および負電圧を出力できます。この IC は複雑な回路を使っていますが、それらの回路は IC 内部に完全に統合されているため、設計の負担にはなりません。

UCC14240-Q1 は 21VIN~27VIN で動作し、トラクション インバータ、オンボード チャージャ、モーター制御における IGBT と SiC 金属酸化膜半導体電界効果トランジスタのゲート駆動アプリケーションを対象としています。これらのゲート駆動アプリケーションにおいて、デバイスをターンオンさせるための正電圧は +15V (標準値)、ターンオフさせるための負電圧は -5V (標準値) です。ただし、それ以外の正および負電圧の組み合わせは、合計 18V~25V の範囲内で許容されます。

図 3図 4図 5 に、SPI プログラマブル ゲート ドライバおよびバイアス電源のリファレンス デザインの一部として、3,000VRMS 絶縁を目標とした自己完結型高耐圧絶縁の例を示します。U1 は実際の DC/DC 絶縁型電源、U3 はスマート絶縁型ゲート ドライバ、U2 (Q1 と L1 を外付け) は車載バッテリ / DC コンバータです。1 次側と 2 次側との絶縁間隔は 8mm であることに注意します。

GUID-7ACA8756-1569-40FE-A3B8-1B93AC122F4C-low.png図 3 車載対応、トランス内蔵、SPI プログラマブル ゲート ドライバおよびバイアス電源のリファレンス デザインの回路図より - 絶縁型 +15V/-5V コンバータ。出典:テキサス・インスツルメンツ
GUID-ADD44D01-CA75-4006-A145-DC515640C516-low.png図 4 車載対応、SPI プログラマブル リファレンス デザインの組み立て済みボード。出典:テキサス・インスツルメンツ
GUID-D07EA428-45C2-4873-832D-87AC44C6D94F-low.png図 5 車載対応、SPI プログラマブル リファレンス デザインの 1.6W 負荷時の熱画像。出典:テキサス・インスツルメンツ

これらの 2 つの方法により、大電力インバータおよびバッテリ チャージャ内のゲート ドライバ用絶縁型電源を実現する上での設計上の課題は大幅に軽減されます。また、無線周波数ノイズをシステム レベルで低減できるという利点もあります。第 1 の方法を使うと、複数の絶縁された出力を 1 つの IC で制御できます。第 2 の方法を使うと、1 つの IC と外付けのフィルタ コンデンサと分圧器のみで、完全な絶縁型電源ソリューションを実現できます。