JAJA714 March   2022 DRV5013 , DRV5015 , DRV5032 , DRV5033 , DRV5053 , DRV5055 , DRV5056 , PGA460 , TMAG5110 , TMAG5111 , TMAG5170 , TMAG5231 , TMAG5273

 

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概要

ロボット掃除機は、家庭、オフィス、ホテルの清掃にますます活用されています。ロボット掃除機の利点の 1 つは、清掃作業を実施する際に、ユーザーの作業が最小限で済むことです。その結果、他の作業に充てる時間を増やすことができます。ロボット掃除機は、清掃作業をインテリジェントに実行するために、さまざまなセンサを使って、ナビゲーションのための外部清掃環境およびロボット掃除機内部状態を検出します。センサを使用するロボットの機能には、モーター整流、車輪のインクリメンタル・エンコーディング (車輪回転検出)、衝突検知、障害物回避、段差検出 、液面検出、ダストボックス取り付け検出、水タンク取り付け検出、持ち上げ検出などがあります。

モーター整流と車輪のインクリメンタル・エンコーディング

ロボット掃除機は、ロボットを移動させるために回転する複数の車輪を備えています。それぞれの車輪モジュールには、通常、個別のモーターがあり、それぞれの車輪を独立して動かせます。ギアボックスを使用してモーターのトルクを最適化し、最適な性能、バッテリ寿命、トラクションを実現することができます。

ロボット掃除機の車輪の駆動に使われる一般的なモーターとしては、ブラシ付きモーターとブラシレス DC (BLDC) モーターの 2 種類があります。ブラシレス DC モーターの場合、車輪のモーター整流用として、1 つの車輪に 3 つのホール・エフェクト・ラッチが必要になります。ただし、ブラシ付きモーターでは、モーター整流用のホール・センサは必要ありません。

車輪の駆動に加えて、ロボット掃除機には、車輪の回転速度と回転方向を検知するメカニズムが必要です。これをインクリメンタル・エンコーディングと呼びます。BLDC モーターの整流に使用するホール・エフェクト・ラッチは、インクリメンタル・エンコーディングに再利用することもできます。

ブラシ付きモーターの場合、モーター整流のためのホール・エフェクト・ラッチは必要ありませんが、ロボット掃除機では、一般的に、車輪のインクリメンタル・エンコーディングのためにホール・エフェクト・ラッチを使用します。赤外線 (IR) エンコーダも、ブラシ付きモーターの車輪速度検出のもう 1 つの選択肢です。ただし、この光学エンコーダは、その性能がほこりの影響を受けるので、車輪のインクリメンタル・エンコーディングには理想的ではありません。赤外線エンコーダは、密閉してほこりにさらされることを減らすことができますが、センサを密閉しても、赤外線エンコーダがこれらの汚染物質にさらされるのを必ずしも完全に防止できるわけではありません。特に、ロボット掃除機は、通常、汚れやほこりにさらされるからです。

図 1-1 に車輪のエンコーディングの実装例を示します。この実装では、磁気ディスクをモーターに取り付け、モーターと一緒に回転させます。ディスクには、複数組の N 極と S 極があります。ディスクの下には 2 つのホール・エフェクト・ラッチがあり、S 極から N 極、または N 極から S 極への遷移を検出するたびに出力が変化します。2 つのホール・ラッチが互いに関連して出力を変化させる順序を観察することで、車輪の回転方向を決定できます。遷移の頻度とディスク上にある極の数によって、モーターの速度が決まります。方向の検出を必要としないシステムでは、モーター速度を判定するために必要なホール・ラッチは 1 つだけです。モーターと車輪の間のギア比を使って、モーターの速度を車輪速度に変換できます。

GUID-20220304-SS0I-JQLR-MLRL-FP7Z2DLNX8JD-low.png図 1-1 車輪のインクリメンタル・エンコーディングの実装例

障害物回避および段差検出

ロボット掃除機は、ユーザーがロボット掃除機を接近させたくない領域を避けたり、障害物を回避したりするメカニズムを備えている必要があります。障害物回避には、磁気ベースの実装が一般的に使用されます。磁気による実装では、図 1-2 に示すように、ロボット掃除機を接近させたくない領域や障害物の周囲に磁気ストリップを配置します。 図 1-2 では、磁気ストリップを冷蔵庫の周囲に配置しています。ロボット掃除機は、ホール・エフェクト・センサを搭載しており、磁気ストリップから磁束を検出して、その領域に近づいてはならないことを把握します。システムが障害物の近くにあるかどうかだけを把握すればよい場合には、ホール・エフェクト・センサの代わりにホール・エフェクト・スイッチを使用できます。その一方で、リニア・ホール・エフェクト・センサを使用すれば、磁気ストリップの実際の位置について、より詳細な情報を検知できます。

GUID-20220304-SS0I-VKCT-SFQ5-PNQVFTVFFJ1P-low.png図 1-2 障害物回避のために障害物の周囲に磁気ストリップを配置

障害物回避には、超音波センサを使用することもできます。このセンサは、超音波タイム・オブ・フライト (ToF) の原理を使って近接した物体との距離を計算して、物体を回避することができます。ただし、このアプローチの有効性は、検出される物体の材質によって異なります。磁気ベースの障害物回避の場合、この問題はありません。また、超音波センサを使ってフロアの材質を判定し、ロボットが材質に基づいてフロア表面を適切に清掃する方法を把握できるようにすることもできます。清掃領域のマッピングには、LIDAR もよく使用されます。

段差検出では、階段の最上部などの段差にロボットが接近する状況を判定し、その経路を通ってはいけないことを把握します。段差を避けるためには、磁気ストリップを段差の前に配置して、ロボット掃除機が接近しないようにすることもできます。赤外線センサを使用して段差の検出を実装することもできますが、この実装では、汚れた環境に直接さらされる場合に問題が発生します。超音波センサも、センサから地面までの距離の増加を検知することにより、段差の検出に使用できます。ただし、段差の検出結果は、段差の材質によって異なります。

衝突検知

ロボット掃除機は、何かに衝突したことを検知して、ロボットの進路を調整できるようにする必要があります。ロボットの前半分の周囲で衝突を検知するには、衝突の可能性があるポイントの全範囲にわたって検知できるようにするために複数のセンサが必要です。

衝突検知は、赤外線レシーバおよびトランスミッタのペアを使って実装できます。赤外線 (IR) ベースの実装の短所として、多数の IR トランスミッタとレシーバのペアが必要であることに加えて、最適なセンシングを実現するためにクリーンな環境が必要であることが挙げられます。IR トランスミッタとレシーバがほこりからシールドされている場合でも、後者の要件は実現が困難です。

より衝突検知に適した実装は、ホール・エフェクトによるアプローチであり、これは、IRベースの衝突検知のようにクリーンな環境を必要としません。磁気ベースの衝突検知では、バンパーの内側に磁石を追加し、これらの磁石を検出するリニア・ホール・エフェクト・センサをロボット内のより深い位置に配置します (図 1-3 参照)。バンパーが何かにぶつかると、バンパーのその領域が内側へ移動し、その部分にある磁石がそれぞれ対応するホール・センサの近くへ移動します。ホール・センサは、センサに近づいてくる磁石からの磁束密度の変化を検出し、それに応じて出力が変化します。これにより、物体にぶつかったことをロボットに警告します。バンパーにはバネが付いているため、衝突後にバンパーが元の位置に戻り、センサから磁石までの距離は通常の状態に回復します。汚れた環境でも機能できることに加えて、このホール・ベースの衝突検知のもう 1 つの利点は、IR ベースの衝突検知方式に比べて必要なセンサ数が少ないことです。

GUID-20220304-SS0I-BV7V-FNV6-LJZ7D9WGQ2GG-low.png図 1-3 磁気ベースの衝突検知の実装例

液面検出

一部のロボット掃除機は、床を拭き掃除する機能も備えています。これらのロボットには、拭き掃除に使用する洗浄液を収容する水タンクがあります。センサを使って水タンク内の洗浄液の液面を判定し、ロボットに新しい液体を注入する必要が生じたときにユーザーに警告することができます。図 1-4 に、ホール・エフェクト・センサを使用した液面検出の実装を示します。この実装では、1 本のレバーの片側を回転軸に取りつて、反対側には浮き (フロート) を取り付けます。このレバーの軸には、円形の磁石と 1 つのリニア 3D ホール・センサまたは 2 つの 1D ホール・センサが取り付けられています浮きは、液面によって垂直位置が変化し、その結果として磁石の配置角度も変化します。リニア・ホール・センサは、磁石の配置角度を検出し、この情報をロボット掃除機のマイクロコントローラに提供して、対応する液面の高さに変換します。テキサス・インスツルメンツは、静電容量式センシング超音波センシングなど、液面検出に使用できる他のセンシング技術も提供しています。

GUID-2A990AB9-B9F4-4380-8A0C-84866AB80E6E-low.gif図 1-4 ホール・エフェクトによる液面検出

ダストボックスおよび水タンクの取り付け検出

通常の掃除機と同様に、ロボット掃除機には取り外し可能なダストボックスがあり、掃除機が吸い込んだほこりやごみをためておきます。ロボット掃除機は、吸い込んだほこりが適切に収容されるようにするため、ダストボックスが実際に取り付けられていることを確認する必要があります。取り外し可能なダストボックスに磁石を取り付け、ロボット内部のその付近にホール・エフェクト・スイッチを配置することにより、ホール・エフェクト・スイッチを使ったダストボックス検出を実現できます。ダストボックスがロボット内に適切に取り付けられると、磁石がホール・スイッチに接近するので、スイッチの出力は LOW にアサートされます。ダストボックスを取り外すと、ダストボックス上の磁石がロボット内のダストボックス・センサの近くに存在しなくなるので、ホール・スイッチの出力が HIGH にアサートされ、その結果、ダストボックスが設置されていないことがロボット掃除機に通知されます。同様の実装を利用して、拭き掃除ロボットの内部に水タンクが正しく取り付けられていることも検出できます。

持ち上げ検出

ロボット掃除機は、ロボットが地面から持ち上げられたことを検出して、車輪の回転を停止できるようにする必要があります。ロボット掃除機が持ち上げられたことを検出するため、車輪モジュールには車輪が地面に接しているときに圧縮されるバネが内蔵されています。このバネが圧縮されることにより、スイッチが押されます。ロボットが地表から持ち上げられると、ばねが伸びて車輪が下がることによって、スイッチが押されていない状態になります。スイッチが押されていない場合、ロボット掃除機に対して地面から持ち上げられたことを通知します。持ち上げ検出スイッチは、マイクロスイッチを使用するか、ホール・エフェクト・センサと磁石を使って実装できます。ホール・ベースのアプローチでは、スイッチ内に磁石を配置し、付近にホール・スイッチを配置します。スイッチが押されると、磁石がセンサに近づくので、センサが出力を LOW にアサートします。掃除機が地面から持ち上げられてスイッチが押されていない場合、磁石はスイッチから遠ざかるので、センサの出力が HIGH にアサートされます。これにより、ロボットは地面から持ち上げられたことを認識します。

推奨デバイス

テキサス・インスツルメンツは、ロボット掃除機のさまざまな機能に対応する複数のセンサを提供しています。表 1-1 に、各機能の推奨部品を示します。

表 1-1 推奨部品と機能
機能 デバイス
モーター整流および車輪のインクリメンタル・エンコーディング
  • TMAG5110 – ラッチ動作を監視するための 2D ホール・エフェクト・ラッチ
  • TMAG5111 – 1 つの IC だけで速度と方向を判定するための 2D ホール・エフェクト・ラッチ
  • DRV5011 – 低電圧、小型、1D ホール・エフェクト・ラッチ
  • DRV5013 – 高電圧、ホール・エフェクト 1D ラッチ
  • DRV5015 – 高感度、低電圧、1D ホール・エフェクト・ラッチ
障害物回避および段差検出
  • DRV5032 – 低消費電力、ホール・エフェクト・スイッチ
  • DRV5033 - 高電圧、広帯域幅、オムニポーラ・スイッチ
  • DRV5053 – 高電圧、リニア・ホール・エフェクト・センサ
  • DRV5055 – アナログ出力、バイポーラ・レシオメトリック・リニア・ホール・エフェクト・センサ
  • PGA460 – 超音波信号プロセッサおよびトランスデューサ・ドライバ
衝突検知
  • DRV5053 – 高電圧、リニア・ホール・エフェクト・センサ
  • DRV5055 – アナログ出力、バイポーラ・レシオメトリック・リニア・ホール・エフェクト・センサ
  • DRV5056 – アナログ出力、ユニポーラ・レシオメトリック・リニア・ホール・エフェクト・センサ
液面検出
  • TMAG5170 – 高精度、リニア 3D ホール・エフェクト・センサ
  • TMAG5273 – 低消費電力、リニア 3D ホール・エフェクト・センサ
  • DRV5055 – アナログ出力、バイポーラ・レシオメトリック・リニア・ホール・エフェクト・センサ
  • DRV5053 – 高電圧、1D リニア・ホール・エフェクト・センサ
ダストボックス取り付け検出、水タンク取り付け検出、持ち上げ検出
  • TMAG5231 – 低消費電力、低電圧、ホール・エフェクト・スイッチ
  • DRV5032 – 低消費電力、ホール・エフェクト・スイッチ
  • DRV5033 - 高電圧、広帯域幅、オムニポーラ・スイッチ

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