JAJT476A February 2024 – July 2025 ISOM8110 , ISOM8600 , ISOM8610 , ISOM8710 , ISOM8711

フォトカプラには、オプトカプラ、光アイソレータ、光学アイソレータという別の呼び名もありますが、長い間、設計者にとっては、システムの信号伝達とガルバニック絶縁を両立しようとするための選択肢の 1 つでした。1970 年代頃から、産業用や車載用の最終製品で高い安全性の絶縁を実現するうえで、これらの半導体デバイスは重要な役割を担っていました。ただし、電気的特性、高電圧下の信頼性、統合の可能性については制約があるため、設計者は他の選択肢を検討し始めました。
静電容量式や磁気式のような絶縁テクノロジーも代替の選択肢として登場しました。これらは、フォトカプラに比べ全体的に良好な性能を達成しています。TI は 2000 年代前半以降、二酸化ケイ素 (SiO2) ベースのデジタル絶縁テクノロジーへの投資を行い、フォトカプラと同じ機能を果たすと同時に顕著な利点を実現するデジタル アイソレータ製品を複数提供しています。
TI のフォトカプラ エミュレータは、従来のフォトカプラの利点と、TI の SiO2 ベースの絶縁テクノロジーの利点を組み合わせたものです。各種フォトカプラ エミュレータは、一般的なフォトカプラとピン互換であり、既存の設計にシームレスに統合できるほか、フォトカプラと同等の信号の挙動を実現しています。設計エンジニアの観点からは、これらの製品はフォトカプラと見なすことができ、よく似た挙動を示しますが、絶縁バリアとして TI 独自の SiO2 テクノロジーを活用しています。バリアが効果的に高電圧信号をブロックし、グランド ループの形成を防止するため、システムの安全性と安定性を確保できます。SiO2 絶縁の利点として、設計者は電気的特性の強化、高電圧に対する信頼性の向上、追加のシステム機能を統合できます。このような半導体製品を製作するに際して、 TI は従来のフォトカプラと TI の SiO₂ ベースの絶縁テクノロジーの優れた点を両立させてお客様に提供することに情熱を持っています。
従来のフォトカプラは LED を使用して、絶縁バリアをまたぐ形でデジタル情報またはアナログ情報を送信します。バリアの反対側ではフォトトランジスタがその信号を検出します。図 1 をご覧ください。フォトカプラ内で使用している LED が、その寿命全体にわたって経年劣化または性能が低下することはよく知られています。LED のこの特性は、システム設計者にとって最もよく挙げられる課題の 1 つです。また、フォトカプラ内で使用している絶縁素材は、ただの空気や、エポキシ、モールド樹脂など多岐にわたります。表 1 に、フォトカプラと、SiO2 誘電体 (絶縁物) を使用するフォトカプラ エミュレータの絶縁強度の違いを明確に示します。
図 1 フォトカプラの代表的な構造| 絶縁材の組成 | テクノロジー | 誘電体強度 |
|---|---|---|
| 空気 | フォトカプラ | ~ 1VRMS/μm |
| エポキシ | フォトカプラ | ~ 20VRMS/μm |
| シリカを充てんしたモールド樹脂 | フォトカプラ | ~ 100VRMS/μm |
| SiO2 | フォトカプラ エミュレータ | ~ 500VRMS/μm |
TI の SiO2 ベースの絶縁バリアを採用したフォトカプラ エミュレータを使用すると、信号の電気的絶縁を実現しながら、フォトカプラにおいて一般的なこれらの課題を両方とも回避することができます。図 2 に、TI のフォトカプラ エミュレータの内部構造を示します。従来のフォトカプラの機能的な動作を送信回路と受信回路でエミュレートし、SiO2 で高電圧絶縁を実現しています。
図 2 TI のデジタル アイソレータの構造先進的な絶縁テクノロジーを統合することで、フォトカプラ エミュレータは従来のフォトカプラに伴う複数の制約を克服し、高い性能と信頼性を実現することができます。フォトカプラ エミュレータの利点について、いくつか説明します。
LED の経年劣化による影響は不可避であり、その性能低下を補うために、従来のフォトカプラでは事前の過剰設計 (オーバーデザイン) を必要とします。その結果、設計寿命全体にわたって余分な順方向電流 (IF) が流れることになります。一方、TI のフォトカプラ エミュレータは IF と電源電流を大幅に小さくでき、消費電力を最大 80% 節減できます。
一般的なデジタル フォトカプラは約 15kV/μs という CMTI に規定されていますが、ISOM8710 は最小 CMTI が 125kV/μs に達しており、同相スイッチング ノイズが非常に大きいアプリケーションやリンギング ノイズの大きいアプリケーションでも使用できます。
より厳格な CTR 範囲を達成するために余分な費用を費やす必要はありません。ISOM8110 のような TI のフォトカプラ エミュレータは、温度範囲全体にわたって安定した厳格な各種 CTR 範囲を標準で備えています。
標準的な高速フォトカプラが 1Mbps から最大 10Mbps のデータ レートに対応しているのに対し、ISOM8710 は 25Mbps に対応しています。その結果、より高いスループットを達成し、多様な高速アプリケーションでフォトカプラ エミュレータを使用することができます。
ほとんどのフォトモスは、制御に 1mA 超の電流を必要としますが、ISOM8610 のような TI のフォトカプラ エミュレータ スイッチは、アノード/カソード ピンを流れる 0.8mA 電流のみのアプリケーションに対応できます。
ISOM8110 は、680kHz の高帯域に対応しており、必須の磁気素子 (インダクタやトランス) のサイズを小型化できます。広い帯域幅に対応した結果、2 次側の安定化フライバック コンバータで、過渡応答を改善することができます。過渡応答の改善によって、出力コンデンサの小型化が可能になり、ボード面積の節減やシステム コスト全体の削減につながります。この利点は、スイッチング周波数の高い GaN (窒化ガリウム) を使用する設計の場合、特に顕著です。
平均的なフォトカプラが対応する温度範囲は 0℃ ~ +85℃ です。一部のフォトカプラはそれより広い温度範囲に対応していますが、そのような製品には余分なコストがかかります。TI のフォトカプラ エミュレータは、標準製品で –55℃ ~ +125℃ という広い温度範囲に対応しています。2024 年には追加の車載認定取得済みデバイスが提供される見込みです。
フォトカプラ エミュレータは、高電圧への対応能力が向上しており、信頼性の高い絶縁を必要とするアプリケーションに最適です。TI のフォトカプラ エミュレータは、絶縁バリアとして SiO2 を活用し、500V/μm の絶縁を実現します。これは、一般的なフォトカプラが使用している絶縁素材である空気 (1V/μm) よりも強力です。
フォトカプラ エミュレータは、フォトカプラの使い勝手に、SiO2 ベースの絶縁による利点を組み合わせ、信号絶縁テクノロジーで大幅な進歩を達成しています。これらのデバイスには、最新システムの要求に対応できる能力があり、性能、信頼性、安全性の向上を確実に達成できます。フォトカプラ エミュレータを活用することで、設計を最適化し、新時代の絶縁テクノロジーを採用できるようになります。
既存の設計をフォトカプラ エミュレータへアップグレードすることをお考えの場合、TI のクロスリファレンス検索をお試しください。現在の設計で使用しているフォトカプラの型番を入力すれば、それに対応する適切なフォトカプラ エミュレータを検索できます。
『高信頼性と低コストを両立させる絶縁技術により高電圧設計の課題を解決』ホワイト ペーパー、『フォトカプラ エミュレータの概要』アプリケーション ノート、およびフォトカプラ エミュレータの製品ポートフォリオ ページをご覧ください。
すべての商標はそれぞれの所有者に帰属します。