JAJY112A August   2020  – May 2022 BQ25790 , BQ25792 , BQ25798

 

  1.   概要
  2.   Authors
  3.   3
  4.   ユニバーサル充電を使用する理由
  5.   OTG 対応充電
  6.   複数の内蔵部品で電力密度を最大化
  7.   昇降圧充電の実装
  8.   まとめ
  9.   関連資料

複数の内蔵部品で電力密度を最大化

ここまでに説明したように、USB PD 充電ソリューションには、制御ユニット、MOSFET、センシング抵抗などの複数の外部デバイスが関係します。これらはソリューション・サイズや BOM (部品表) コストに関して最適化されていません。

図 2 に示す完全統合型の昇降圧チャージャは、USB PD 充電ソリューションのシステム・レベルの設計を簡略化することができます。第一に、入力電流センシング機能は充電機能の一部として内蔵済みです。ここでセンスした入力電流を使用して、チャージャは入力電流のレギュレーションと入力過電流に対する保護を実施し、アダプタの過負荷を防止します。入力の過電圧と過電流の保護回路の一部として、外部の背面結合 MOSFET に対する制御ロジックとドライブ回路も内蔵しています。これらの機能を内蔵した結果、入力パワー・パス・マネージメント機能と入力電流センシング機能をサポートするユニットを、ブロック図から省略できます。

ポータブル・デバイスでは、複数の電力供給源への対応が一般的なトレンドになっています。たとえば、入力電力供給源として、USB アダプタ、従来型のバレル・プラグ・アダプタ (AC アダプタ)、充電ケース (充電機能付きケース)、太陽電池などが使用できることがあります。背面結合 MOSFET に対する 2 個のドライバを使用して、チャージャは 2 種類の入力電力供給源からの入力電圧のうち、どちらかを選択できます。

また、チャージャは 4 個のスイッチング MOSFET と、これらに関連する制御ロジックやドライバも内蔵しています。NVDC パワー・パスを管理するバッテリ FET は、チャージャ内部に内蔵されています。このバッテリ FET 経由で流れる充電電流をセンスすることで、外部センス抵抗をチャージャの出力側から省略できます。

4 個の FET で構成された昇降圧コンバータの双方向動作を実装すると、チャージャ自体が OTG モードをサポートできます。アダプタが存在している場合、チャージャは順方向充電モードで動作し、電力は VBUS からバッテリに流れます。

GUID-20220426-SS0I-MM2W-C9P3-7HQLRM657PBD-low.gif図 3 単一の昇降圧チャージャで実現した USB Type-C™ FRS

アダプタを取り外すと、電力の流れは反転し、バッテリから VBUS に流れます。OTG モードの出力電圧は VBUS と同じ値であり、10mV 単位でプログラマブルな 2.8V~22V という USB PD の全電圧範囲を網羅します。これは、USB PD 3.0 の仕様と互換性がある範囲です。

USB Type-C ポートで FRS をサポートするために、この統合型昇降圧チャージャは斬新なバックアップ・モードを実装しています。この文脈で「バックアップ・モード」とは、バス電圧のクラッシュを招かずに、昇降圧チャージャを順方向充電モードから逆方向の OTG モードに非常に高速に切り替えることを意味します。

図 3 のアプリケーション回路図を参照すると、USB ポートに接続したアダプタがシステムに電力を供給し、昇降圧電力段経由でバッテリを充電しています。同時に、このアダプタはチャージャの PMID 出力からアクセサリに電力を供給することもできます。アダプタを取り外した時点で、バッテリの内部 FET が引き続き電力を供給することも可能ですが、その場合は PMID に接続してあるアクセサリが電力を受け取れなくなる可能性があります。

バックアップ・モードが有効な場合、このチャージャは VBUS の電圧を監視できます。VBUS の電圧が、プリセット済みのスレッショルドを下回った場合、アダプタが取り外されたことを意味します。このような取り外しを検出した場合、チャージャは最小の遅延時間で順方向充電モードから OTG モードに切り替わり、バッテリの放電と VBUS 電圧へのレギュレーションを実施し、単独で FRS を実現します。アダプタが取り外された時点で、システムとアクセサリに電力を供給する入力源をアダプタからバッテリにシームレスに切り替えることができます。この結果、ブロック図に記載してある、OTG モードと FRS のための DC/DC コンバータが不要になります。

図 4 に、FRS に対応するチャージャ・バックアップ・モードのテスト済み波形を示します。入力電源として 9V アダプタを USB1 に接続しています。ACFET1 と

RBFET1 をオンにすることで、VBUS をアダプタと接続しています。PMID 端子に 1A のアクセサリ電流が流れ、BAT に 1A の充電電流が流れるとしましょう。9V のアダプタ電圧 (VAC) を取り外した時点で、PMID と VBUS で 5V のレギュレーションを継続し、1A の PMID 負荷に引き続き電力を供給することが可能です。

GUID-20220426-SS0I-4RMR-N4C9-DVLVTNHLPJ7G-low.png図 4 VBUS シンク (VBUS は電力を引き込み) から VBUS ソース (VBUS から電力を供給) に切り替えたときの、昇降圧チャージャの FRS (高速な役割の切り替え)