JAJA696A March   2022  – May 2024 TMAG5170 , TMAG5173-Q1 , TMAG5273

 

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リニアモーター搬送システムの概要

リニアモーター搬送システムは、従来のコンベヤ ベルトによるファクトリ オートメーション システムに取って代わり、機能を強化する新しい産業用アプリケーションです。回転する電動モーターがベルトを一定の速度で駆動するコンベヤ ベルトとは異なり、リニアモーター搬送システムは、複数の静止した非可動コイルによるリニアモーター モジュールを使用して、組立または処理の対象となる製品を搬送する磁気ムーバーを駆動します。従来のコンベヤ ベルトによるシステムと比較すると、システムとしていくつかの利点があります。

このメカニズムは自由度が高いので、コイルをベースとするリニアモーター セグメント モジュールは、より小型になり、今までにない配置ができるようになっています。たとえば、直線、曲線、交差、さらには 2 次元の移動も可能です。セグメント内の各リニアモーターは、個別に制御できるため、同じセグメント上の複数のムーバーを異なる速度と位置で駆動できます。たとえば、あるムーバーが停止して搭載した製品の処理または分析を行っている間に、別の製品を搭載した他のムーバーは、最大速度で次の処理に向かって移動することができます。この独立制御により、従来のコンベヤ ベルト駆動システムに比べてスループットが大幅に向上します。

図 1 は、固定された直線および曲線セグメントとムーバーを使用した簡単なリニアモーター搬送システムを示しています。各セグメントは、通常、三相リニアモーターを実現するコイルを備えたリニアモーター出力段、セグメントごとに各ムーバーの位置と速度を検出するリニアモーター位置センサ、ムーバーの位置および動作をリアルタイムで制御するためのリニアモーター セグメント コントローラで構成されています。図 2 に、ムーバーの概略図を示します。

TMAG5170 磁気ムーバーを使用した簡単なリニアモーター搬送システム 図 1 磁気ムーバーを使用した簡単なリニアモーター搬送システム
TMAG5170 センサと磁石を使用したムーバーの概略図 図 2 センサと磁石を使用したムーバーの概略図

要件

リニア モーター搬送システムを採用すると、複数の磁気ムーバーが 1 次元または 2 次元を、最大 10m/s の速度、最小 0.01mm の線形位置精度と再現性で移動することが可能になります。磁気センサの磁界の範囲は、ムーバーの検出磁石、およびムーバーの磁石と静止型マルチポジション センサのプリント基板 (PCB) との間の距離によって異なります。通常、磁界の範囲は 50mT~300mT です。スペースの要件により、高集積の 3D ホール センサ システム オン チップ (SoC) を搭載した小型パッケージが有利です。使用するセンサの動作周囲温度が 85℃ を超えていれば (たとえば125℃)、高い電力密度を実現しながら、これらの過酷な条件下でも正確なセンサ データを取得できます。

1 つのセグメント内で複数のムーバーの位置を同時に検出する必要があるため、同時サンプリングと低レイテンシの位置測定が重要です。低レイテンシのデジタル インターフェイスを備えた 3D ホール エフェクト センサは、アナログ出力の SoC よりもノイズに対する耐性が高いという利点があります。デジタル インターフェイスを備えた SoC の他の利点として、ダイの温度、ホール素子、電源電圧の診断などの SoC の診断および監視機能を統合して、システムの信頼性向上を実現できるということがあります。

表 1 リニアモーター搬送システムで使用する磁気センサの要件の例
パラメータ 値の例 位置センサ SoC への影響
ムーバーの速度 最大 10m/s センサのサンプリング レートに影響、閉ループ位置制御周波数は 4kHz 以上。
ムーバーの位置決め精度 / 繰り返し精度 最小 0.01mm センサ分解能、精度、隣接するセンサ間の最小間隔に影響。
センサ テクノロジー 3D/2D ホール センサ 3D ホール センサであれば 2 次元位置センシングが可能。
センサの磁界の範囲 50mT … 300mT 線形入力範囲のフルスケール磁界強度
センサ分解能 通常 12 ビットの分解能 プログラマブルな磁界範囲調整機能を備えた SoC であれば、軸ごとに入力範囲を調整して分解能および精度の向上が可能。
センサ インターフェイス アナログまたはシリアル デジタル MCU へのインターフェイス
センサのレイテンシ 最小 100μs 高速の SPI (たとえば 10MHz の SPI) は、システムのレイテンシ短縮に有効。
複数のムーバー位置の同時サンプリング 低ジッタの変換開始機能付きセンサ。 ハードウェア ピンまたは SPI コマンドによる変換開始信号入力を備えたセンサ。
センサ設計の PCB 面積 できるだけ小さく。 デジタル インターフェイスを搭載した統合型 3D ホール SoC によりシステムの小型化が可能。
動作温度範囲 小型フォーム ファクタと高い電力密度は、セグメント内の高温化につながります。 85℃ を超える周囲温度範囲に対応する 3D ホール SoC。
EMC 耐性 CRC 付き SPI CRC 付きのデジタル インターフェイスにより、インパルス ノイズに対する耐性が向上。
システムの信頼性、予知保全、フォルト検出機能 3D ホール センサー チェック、供給電圧チェック、ダイ温度チェックなど。 たとえば、SPI を備え、診断機能を内蔵したセンサにより実現可能。

設計手法

SPI 付き高精度リニア 3D ホール エフェクト センサを等間隔で配置したリニア位置センシング用の設計を 図 3 に示します。

TMAG5170 3D ホール エフェクト センサ アレイを使用した PCB
                    の断面図 図 3 3D ホール エフェクト センサ アレイを使用した PCB の断面図

各 3D ホール センサ間の距離は、システム固有であり、ムーバーの磁界強度と磁石の直径、エアギャップ、必要な位置精度によって決まります。通常、隣接する 3D ホール センサ間の距離は、システム固有であり、数mm~数十mm の範囲にあります。Z 軸と X 軸の最大磁界強度は同一ではないので、各磁界軸について個別に範囲設定と最適化が可能な 3D ホール センサを使用すれば、より高い位置分解能と精度の実現に役立ちます。

図 4 に、高精度 3D ホール センサを使用したシステム ブロック図を示します。専用の変換開始ピン (ALERT) により、ホスト MCU からすべての 3D ホール センサの同時サンプリングが可能になり、電力段およびセグメント制御アルゴリズムについて、位置サンプリング時間を低ジッタで同期できます。

TMAG5170 TMAG5170 センサ アレイに接続したホスト MCU の
                    SPI 図 4 TMAG5170 センサ アレイに接続したホスト MCU の SPI

個別のチップ セレクトを備えた 10MHz の SPI イを使えば、ホスト MCU との通信に必要な信号配線の数が最小限になります。絶対的な最小レイテンシを実現するようにシステムを最適化する場合、各 TMAG5170 からホスト MCU へ個別に SDO 信号を配線することも可能です。

次に、各センサ個別の直線上の位置をホスト MCU によって計算します。最初のステップとして、MCU は各ムーバーに最も近いセンサを検出する必要があります。たとえば、センサ アレイ内で最大の Z 軸値を検索します。次に、多くの場合、Z 軸および X 軸についてオフセットおよびゲインを補正します。これらの補正値を用いてセンサと磁石の間の相対角度を計算します。その計算は MCU によって行うか、または、センサの CORDIC 出力を使用します。必要があれば、計算結果をさらに線形化して、機械的セットアップに対する位置トラッキングを最適化することもできます。

図 5 に、直径 10mm の N52 磁石が 3D ホール センサの位置から X 軸方向に ±20mm 変位した場合をシミュレートした磁界 Z 軸および X 軸の磁界強度 Bz および Bx を示します。

TMAG5170 10mm 磁石の磁界入力 図 5 10mm 磁石の磁界入力

図 5 に示す磁界入力を使って絶対位置を計算すると、簡単な感度ゲインとオフセット補正を使用して、±13mm の範囲の位置において 0.1mm 未満の位置誤差を実現できます。補正アルゴリズムの詳細については、「リニア ホール エフェクト センサによる直線移動の変位トラッキング」を参照してください。

残りの系統的誤差は、両方の軸における理想的な正弦波および余弦波から外れた磁界に関係するもので、三角関数計算を使ってさらに補正できます。ただし、この複雑な分析は、このレポートの範囲外です。

TMAG5170 直径 10mm の磁石の絶対位置誤差 図 6 直径 10mm の磁石の絶対位置誤差

TMAG5170 高精度 3D リニア ホール エフェクト センサ、SPI 付き 3D ホール センサ SoC のさらなる利点は、デバイスに内蔵された、さまざまな機能に関するものです。

TMAG5170 3D ホール エフェクト センサ

TMAG5170 は、高精度のリニア ホール エフェクト センサで、3 つの軸に対して感知できます。互いに直交するホール エフェクト素子を使って磁界ベクトルの各成分を検出できるので、さまざまなカスタマイズが可能です。このデバイスは各チャネルを順にサンプリングし、内蔵 12 ビット ADC を使って、最大 20ksps のサンプル レートで結果を変換します。

TMAG5170 TMAG5170 のブロック図 図 7 TMAG5170 のブロック図

TMAG5170 は、自己診断機能、プログラム可能なアラート スレッショルド、確定的なサンプリングのためのカスタマイズ可能なトリガ機能など、多くの機能を備えています。

TMAG5170 の自己診断機能は、VCC の状態、パワーオン リセット、出力ピンの状態、デバイス メモリ、温度、その他のさまざまな内部チェックを動作中に実施可能です。この利点により、マイクロコントローラは、システム内の各センサが正常に動作していることを簡単に確認でき、信頼性や安全に関するリスクにつながるおそれのあるシステム レベルの問題を検出できます。

TMAG5170 から磁界変換を開始するための 3 つのトリガ モードがあります。このデバイスの ALERT ピンは、ホスト コントローラの適切な I/O ピンによって駆動される入力ピンとして機能することもできます。このハードウェアのトリガは、便利で簡単です。さらに、個別の SPI コマンドまたはデバイスの CS ピンによって変換をトリガすることもできます。一定のトリガー タイミングを使う場合には、デバイスの変換レートに基づいて、得られた測定値をリニア ムーバーの実際の位置に関連付けることができます。

図 8 に、8kHz の位置サンプル レートで、ALERT ピンを使ってホスト MCU から新しい変換をトリガするタイミング例を示します。この例では、TMAG5170 は、Z と X の 2 つの軸に対する疑似同時サンプリングモードに設定されています。サンプルからデータ送信までの実効レイテンシは、約 60μs です。

TMAG5170 による 32 ビット データの SPI 転送には、10MHz の SPI クロックで 3.2μs を要するとともに、対応するセットアップ時間とホールド時間が必要なので、複数の TMAG5170 SDO データ ラインを並列にホスト MCU に接続する場合、全体のレイテンシは約 64μs になります。多重化された共通の SDO データ ラインを複数の TMAG5170 が使用する場合、全体のレイテンシは、TMAG5170 センサの逐次読み出し回数に依存します。全体のレイテンシは、60μs + N x 4μs~5μs です。ここで N は、チップ セレクト信号のセットアップ時間とホールド時間のオーバーヘッドを含む SPI 転送の回数です。

TMAG5170 変換開始信号
                        (ALERT) による 8kHz サンプル レートのタイミング図 図 8 変換開始信号 (ALERT) による 8kHz サンプル レートのタイミング図

SPI コマンド トリガまたは CS トリガを使用する利点の 1 つは、これらのトリガではコントローラへ追加のフィードバックを行うために ALERT ピンを利用できることです。プログラム可能なスレッショルド限界値を使用すれば、システム内の各 TMAG5170 は、個々のリニア ムーバーの相対的な距離に関するフィードバックを提供できます。有用な入力を受け取るセンサのみを識別することにより、システムではデバイスのアレイ上でより効率的な SPI 読み出しを実装できます。

詳細については、以下の代替デバイスとサポート資料をご検討ください。

表 2 代替デバイス
デバイス 説明 設計の考慮事項
TMAG5170
(TMAG5170-Q1)
商用 (車載用) グレードのリニア 3D ホール エフェクト位置センサ、SPI 付き、8 ピン DGK パッケージで供給。 SPI で完全な磁界ベクトルのセンシング。TMAG5170 は、高精度であり、システム監視に役立つ自己診断機能を備えています。
TMAG5273 リニア 3D ホール エフェクト位置センサ、I2C インターフェイス付き、6 ピン SOT-23 パッケージで供給。 I2C インターフェイス上で完全な磁界ベクトルのセンシング。TMAG5273 には、診断機能がありません。
TMAG5173-Q1

車載用グレードのリニア 3D ホール エフェクト位置センサ、I2C インターフェイス付き、6 ピン SOT-23 パッケージで供給。

TMAG5170 よりも感度公差の仕様が広く、I2C 経由で動作します。
DRV5055
(DRV5055-Q1)
商用 (車載用) 1 軸バイポーラ リニア ホール エフェクト センサ、アナログ出力付き、SOT-23 および TO-92 パッケージで供給。 DRV5055 は、アナログ出力付きの 1 次元リニア ホール エフェクト センサです。単軸検出であるため、リニア アレイの設計では、より高密度のセンサ配置が必要になります。アナログ出力なので、個々のデバイス出力をサンプリングするための ADC が必要です。
表 3 サポート資料
名称 説明
リニア ホール エフェクト センサ アレイの設計 長い経路にわたって動作をトラッキングするためのセンサ アレイを設計するためのガイド
リニア ホール エフェクト センサによる直線移動の変位トラッキング 直線移動の磁気センシングに関する直線上の位置計算に関する簡単な説明
TMAG5170 SPI バス インターフェイス搭載、高精度、3D リニア ホール効果センサの評価基板 GUI および付属品により、高精度の 3 次元リニア ホール効果センサを使用した角度測定機能を実現
TMAG5273 I²C インターフェイス搭載、低消費電力、3D リニア ホール効果センサの評価基板 GUI および付属品により、3 次元リニア ホール効果センサを使用した角度測定を実現
TMAG5173EVM 車載対応、I²C インターフェイス搭載、高精度、リニア 3D ホール エフェクト センサの評価基板 GUI および付属品により、3 次元リニア ホール エフェクト センサを使用した角度測定を実現。
DRV5055 評価基板 評価基板は、デジタル ディスプレイを装備し、計測対象面に沿った直線上でのさまざまなセンシングを実現
TI プレシジョン ラボ - 磁気センサ ホール エフェクトとその用途を説明した一連の有益なビデオ シリーズ